「元A級冒険者カスヤン、お前との腐れ縁もこれで最後にしてやる。お前の様な奴は最早法では裁けない。俺がこの手で裁いてやる!」
「ヤァァァン!?」
気が付くと、カスヤンの目の前には、こちらを敵視している荷物持ちが居た。そして、カスヤンは思い出す。この状況は荷物持ちとの最後の戦いのシーンだと。
荷物持ちを追放した後パーティが崩壊し、カスヤンは人間社会に居られなくなった。その後、魔王やその上の大魔王と手を組み魔人と化したカスヤンは、真の仲間を得た荷物持ちと最後の決戦をして、全く歯が立たず敗北したのだ。
「ヤンヤンヤン!ヤンヤンヤー!」
これまでの屈辱を思い出し、怒りに燃えるカスヤンだったが、脳味噌アップデートと二度目の最終決戦という事もあり幾分か冷静だった。
「ヤンヤンー!」
カスヤンは女神から与えられた職業、『鑑定士』の力を発動させる。
鑑定士、それはその名の通り、アイテムの価値等を正確に知る事の出来る職業。だが、これを極める事で、未来を予測したり相手の弱点を知る事すら可能となる。
「ヤンヤン!ヤンヤ、ヤンヤ!」
勇者だった頃には全く見えなかった荷物持ちの動きが、鑑定眼のおかげで手に取る様に分かる。鑑定眼で敵の攻撃を見切るってどういう事だよ、そう思う方も居るだろう。だが、これはそういう鑑定眼なのだ。文句はそういうテンプレ作った先人に言ってくれい。
「ヤンンンン!」
鑑定眼で荷物持ちの行動の未来を読み、先手を取り続けるカスヤン。このまま行けば勝てると思ったその時だった。
「ヤ、ヤンン!?」
突如カスヤンの頭に流れ込む不快な情報。全てを理解する卓越した鑑定眼は、荷物持ちの後ろで棒立ちしている真の仲間達の思考までも読み取っていた。荷物持ちと彼女達の絆、ラッキースケベ甘々ハーレムな日々が情報として流れ込んでくる。
「ヤンヤ!」
鑑定眼の出力を抑えて、トロフィーヒロインとのハーレム情報をシャットアウトしようとするカスヤン。だが、荷物持ちの攻撃を読み切るだけの情報処理能力を維持しようとすると、どうしても他の情報も入って来てしまう。
「ヤー!ヤー!ヤー!」
全てを見通す鑑定眼は容赦無くカスヤンに残酷な現実を見せ付ける。世界中の人間からの悪意を持たれている事も、大魔王から最も愚かな人間と見下されている事も、この戦いに勝利しても何も得る物が無い事も、魔人化した肉体が遅かれ早かれ崩壊する事も知らされてしまった。
「ヤー…」
肉体の限界よりも先にカスヤンの精神は崩壊し、その場に崩れ落ちた。
「ニモくん!何だか分からないけど、今がチャンスだよ!」
「ニモ兄ぃ!アタイらの分までやってくれ!」
「ニモ様…!」
ヒロインズの声援を受けて、荷物持ちは剣をカスヤンの首に振り下ろす。
「これで、最後だぁぁぁ!」
「ヤ」
ザンッ!
■ ■ ■
「うーす、お疲れちゃーん。鑑定士どうだった?」
「ヤンヤン!ヤンヤ、ヤンヤン!」
女神の居る不思議空間に戻って来たカスヤンは、未来や周囲が見え過ぎて耐え切れなかった事を説明した。
「それな!全知全能やそれに近い状態って、心病むんよ。君の場合、元が馬鹿で鈍感だったから、更に悲惨な事になっちゃったよね」
「ヤーン、ヤーン」
「よしよし、一回メンタルリセットしてあげるから、これに入って」
ベコン。
「ヤンヤヤーン!」
カップ焼きそばの容器インからのベコンでカスヤン復活。これってメンタルの治療にも有効なんだと感心するカスヤンだった。
「そんじゃ、メンタル回復した所さんで、次行ってみよー」
「ヤンー…」
カスヤンは新たに選ぶ職業を考える。鑑定士みたいな読みを強化する職業は二度とゴメンだ。だったら、単純な力押しで。そう、圧倒的な戦闘力だけを手に入れれば荷物持ちを倒してかつハッピーな未来を手に入れられるはず。
だか、そんな都合の良い職業があるのか?あった。
「ヤンヤン」
「おけ。今回はそーゆー職業ね。了解道中膝栗毛〜」
女神の力で新たな職業を得たカスヤンは、足元に出来た穴へダイブし、荷物持ちとの最終決戦へと向った。