気が付くとカスヤンはデカい女の前で正座していた。大魔王の像よりデカいその女は、当然ながらカスヤンの知らない人だ。
「おっはー、ウチは見てのとーり神です。オタクに優しい女神さんだよ」
「ヤーン!」
カスヤンは
「あっ、ごめーん。声大きすぎちゃった。今、復活させるから待ってて。えーと、使い終わったカップ焼きそばの容器とポットはどこにやったかな〜あったあった」
女神は冷蔵庫ぐらいでかいカップ焼きそばの空容器を床に置くと、心肺停止したカスヤンを入れ、熱湯を注いで三分待った後にシンクにお湯を捨てた。
「ヤーン!」
ベコンという音と共に意識が戻ったカスヤンは、カップ焼きそばの容器の中で暴れ出す。
「ハイハイ落ち着いて。今、蓋開けまちゅからね〜」
「ヤンっ」
カップ焼きそばの蓋が開き、カスヤンの目の前に再びでかい女の顔が現れる。
「あーあー、声の大きさはこのぐらいでオッケー?改めて自己紹介すんね。ウチは君が住んでる世界を作った女神。何か最近退屈だったんで、君を呼んでみたワケ」
「ヤン?」
「君さー、荷物持ちを追放してざまぁされたのは覚えている?」
「ヤーン?ヤン、ヤン…ヤンヤンヤン!」
女神に言われて、カスヤンはここに来る前にあった事を思い出す。女神に言われた通り、彼は荷物持ちを追放し、そしてざまぁされていた。
「ヤンヤンヤン!ヤンヤンヤン!」
「どうどう、落ち着け〜。怒っても良い事なんて何も無いよ」
「ヤン!ヤン!」
「んー、そっか君はあの荷物持ちに勝ちたい。何が何でも勝ちたい。幼馴染を寝取って、魔王と手を組んででも勝ちたかった。でも勝てなかった」
「ヤン?」
カスヤンの人生全てを見てきたかの様に話す女神。そう、実際に彼女はカスヤンの人生を観察していた。
「ウチさ、君の事はよーく知ってるの。ほら、そこにモニターあるでしょ?アレで君と荷物持ちの戦いを見て来たの。何万、何億回とね」
「ヤンヤ?」
「何でって、そりゃウチにはそれしか娯楽が無いからだよ。自分の作った世界をモニターで観察して、カップ焼きそば食べるのがウチの唯一の楽しみなワケ」
自分の人生が女神のメシウマの為に存在する事、女神が悪趣味な事、自分が何億回も同じ様な人生を繰り返している事を一度に告げられ、カスヤンはショックでその場に崩れ落ちた。
「ヤンンンンンー!」
カスヤンは今直ぐこの邪神を倒さねばという使命感を感じ、剣を抜き飛び掛かった。腐っても、カスヤンは勇者だった。
「マテマテ、落ち着いて」
「ヤンー!」
カスヤンの決死の一撃は、女神の持つ割り箸であっさり止められた。
「話を聞けってば。ウチは最近同じ様な展開ばかりで飽きたって言ったよね?」
「ヤン?」
「いっつもいっつも、追放した勇者がざまぁされるんだよ?流石に飽きちゃった。だ・か・ら、ウチが君に望む職業をあげちゃう」
「ヤンヤ…」
カスヤンは自分の人生を振り返る。カスヤンが荷物持ちに負けた原因を考えると、相手の持っていたハズレ職業が勇者や剣聖よりずっと凄いぶっ壊れだったからである。
「ヤンヤン!ヤーン、ヤンヤン!」
カスヤンは女神の提案に乗る事にした。同等以上の職業ならば、あんな荷物持ちに負けるはずが無い!そう思ったからだ。
「一応聞くけど、ウチから新しい職業貰ったら、君はもう勇者では無くなるけど、本当に良い?」
「ヤン!」
考えてみたら、勇者として持て囃されてはいたが、勇者だからこその強みって特に無かった。魔王には勝てなかったし、幼馴染や王女から愛される事も無かった。荷物持ちに勝てなかったのは勇者がクソ職だからでは無いか?そう思ったカスヤンは、最早勇者に未練は無かった。
「おけ!んじゃー、これから君に新しい職業を与えてから、人間の世界へ投げ込み荷物持ちと戦って貰うワケだけど、とんな職業になりたい?」
「ヤン?」
カスヤンは自分で決めて行動しなきゃならない事を突きつけられて、その場で考え込んだ。
「ヤン、ヤーン、ヤーン」
考えるという行為のストレスにより、カスヤンは苦しみだす。カスヤンは今まで好き勝手に生きてきたと思ってはいたが、実際は国王・魔王・大魔王からのお使いをこなしていただけで、自分で選択して何かをやるなんて事は生まれてこのかた、やった事が無かった。
「ヤン、ヤンヤン、ヤンンンンン」
チュドーン!
知恵熱で頭が膨張し、内側から爆発しカスヤンは死んだ。
「マ!?」
女神はカスヤンの頭の悪さに驚き呆れ、飛び散った頭部を拾い集めると、胴体と一緒にカップ焼きそばの容器に入れてお湯を注いだ。
ベコン。
「ヤッヤヤーン!」
「あー、良かった生き返った。メンゴメンゴ。ウチ、手順一個飛ばしてたわ。先に君の脳をアップデートするんだった」
女神がカスヤンの頭に手をかざすと、カスヤンの頭の中に異世界ファンタジー系作品のあれやこれやに出て来たあらゆる職業のテンプレが出て来た。
「ヤン、ヤン!ヤン!!」
今まで分からなかった事が色々分かるようになったカスヤンは、再び職業選択について考える。
「ヤン、ヤン、ヤン、ヤーン!」
目をキュピーンと輝かせ、成りたい職業を告げるカスヤン。
「ふーん、君はその職業を選んだの。了解道中膝栗毛〜」
女神から目当ての職業を授かったと同時に、カスヤンの足元に大穴がパカッと開き、その中へと吸い込まれて行った。
「ヤァァァン!?」
「んじゃ、行ってら〜。ウチはここで焼きそば食ってるから」
こうして、追放勇者カスヤンによるリベンジざまぁが始まったのだった。