「」
悪役令嬢が何かを言おうとしていた。だが、それよりも速くマケールは刀で胸を貫いていた。
「マケッ!」
自らの胸を貫き、何もせす力尽きるマケール。ざまぁしようとしていた悪役令嬢も衛兵もポカーンとしていた。
■ ■ ■
「え?え?え?ちょっと、何やってるのよー!」
女神の居る空間では、食事の準備をしていた女神が、モニターに顔を近付けて文句を言っていた。
「マケーッ!」
こちらに背中を見せている女神に向かって、マケールは愛刀を抜いて突撃する。
ドスッ!
「あっ」
女神は自分の背中から胸にかけて刀が貫通しているのを見て、漸く気付く。マケールが自分を殺そうとしていた事を。
マケールが今回願ったチートは『ジャイアントキリング』。それは、弱者が強者を打ち倒す為の力。相手との実力差を埋めるだけの力を得て、後は戦術と根性次第で勝敗が決まるという所まで持って行くというチートだった。
マケールがこのチートが欲しいと言った時、女神は中々に良いチートだと思った。覚悟さえあれば少なくとも相打ちにまでは持っていける。そう思ったから、今までよりは期待してモニターの前で正座待機していた。だが、マケールがこのチートを選んだのは女神を討つ為だったのだ。
「…何で?」
胸と口から溢れる血を見ながら、女神は問うた。命を狙われた理由では無い。自分が恨まれているのは、百も承知だ。聞きたいのは、攻撃が成功した理由の方だ。
「マケケ、マケー。マケマッケ」
「そっか。私が言っちゃったもんね。『英雄召喚して頼ろうとした小悪党の末路はこんなもの』って」
ぐうの音も出ない答えを突きつけられ、女神は納得するしか無かった。
一つ前のチート、『英雄召喚』でマケールが自らが召喚したカテータに殺された時に女神が言った言葉、あれはそのまま女神とマケールの関係にも当てはまっていた。だがら、マケールは気付いてしまったのだ。実力差さえ埋める事が出来たら、カテータが自分を殺せた様に、自分がこの女神を殺せるんじゃないかと。
ざまぁに失敗してこの世界に戻って来た時、僅かな間だがチートが残っている事は未来視を選んだ時に確認済み。後は賭けだった。開幕早々に自殺してこちら側に戻った時に女神が油断しているかどうか。マケールはその賭けを実行し、勝ったのだ。
「ああ、私これで死ぬのね。せめて、最後に」
己がもう助からないと悟った女神は、血に染まった白米を素手で掴み口へと運んだ。
「しょっぱ〜い」
その言葉を最後に女神は崩れ落ち、みるみる内に萎んでいった。
「マケマッ!?」
女神はやがてマケールよりも小さくなっていき、その姿も美女から老婆へと変化し、そして煙の様に消え去った。
「マケ…」
勝つには勝ったマケール。だが、ここからどうしようかは全くのノープランだった。