「すみません、貴方誰ですか?突然現れて婚約破棄とか言われても、困るのですが。え?男爵令嬢も貴方の事は知らないみたいですよ?」
歴史のズレが大きくなり、遂に面識すら無い世界になってしまった。だが、今回もマケールは衛兵に捕まりそうになる。不審者だからだ。
「マケー」
ため息をついてから、マケールは両手を広げると、上着が破れ、鍛えられた背筋が露わになった。このムキムキの身体こそが今回のチート。地上最強の生物である。
「マケ!」
武術の構えを取り、衛兵を迎え撃つマケール。マケールは今正真正銘地上最強の生物!
地上最強の生物、それは地上に生を受けた存在相手にタイマンで絶対負けない腕力を手にしたと言う事だ!
「不審者め、この地底王国の卒業パーティにどうやつて入って来た!」
「マ?」
衛兵の言葉を受けて、マケールの筋肉が一気に萎んでいく。地上最強の称号は…地底では無意味!
「覚悟しろ侵入者!喰らえ、ロケットパーンチ!」
おまけに衛兵はアンドロイドだった。地上最強の生物の称号は…無生物には無意味!
ドカーン!
「マケーッ!」
ロケットパーンチを顔面に受けたマケールは、首の骨を折って即死した。このロケットパーンチは、地底人基準では安全に捕獲する為に威力を抑えたものだったが、脆弱な地上人のマケールにはとても耐えられるものでは無かったのだ。
■ ■ ■
「お帰」
「マケケケケケケー!マケーッ!マケーッ!マケケケケケケ、マケマケ!」
流石に今回の展開は無いやろ。そう思ったマケールは、まだ残っていた地上最強の生物の力で女神に飛び掛かった。
「うん、落ち着こうね」
ペチーン!
「マケーッ!」
女神のビンタでマケールは押し潰されてしまった。
女神の居るここは地上では無い。よって、地上最強の生物は…無意味!
「うーん、どうやら君に掛かってる敗北の運命は相当強固みたいね。君が選んだチートに対抗するかの様に世界が作られたのがその証拠よ」
「マケー?」
「そうよ。君が今まで飛ばされた世界は私が一から作った訳じゃ無いのよ。もっと上の神様から届いたパーツを説明書を読みながら組み立ててるだけ。だがら、完成した世界に君を投げ込んで観察するまでは、私にもそこがどんな設定の世界か分からないのよ」
マケールは絶望した。この女神より上位の存在が居て、そいつがマケールを負けさせる為だけに世界を設計していたとしたなら、女神が用意したどのチートでも勝てない仕様ではないか。
そして、自分が負ける為の設計になっている可能性は今回の敗北で痛い程分かった。恐らく、マケールが悪役令嬢に勝てそうなチートを選んだ時は、マケールが飛び込む直前に、そのチートで勝てない世界に入れ替わっている。
「マケケケケケケ、マケケケ、マケケケケケケ。マケケケケケケ、マケケケケケケ」
「うーん、それはどうなのかな?」
マケールは自分の仮説を女神に主張したが、女神は首を傾げるばかりだった。
「君のその説は、多分間違ってるわ。だって、昔は婚約破棄した王子が勝つパターンも確かにあったもの」
そう言えばそうだったとマケールは思い出す。初めてここに来た時に、確かに女神は言っていた。最近は婚約破棄王子がざまぁされてばかりで飽きたと。
それを思い出してマケールは閃いた。婚約破棄王子が勝った状況を再現したら、勝てるんしゃね?
「マッケ?マケケケケケケ、マッケ!」
「ごめん、それを教えるのは出来ないのよ。私が君に出来るのはチートを与えてこの穴から君を出し入れするだけなの」
「マケー、マケ、マケケケケケケ?」
「あ、うん。そーゆーチートね?それなら出来るわよ。はい、チート付与完了!頑張ってねー♡」
この世界が自分に対するメタを張っていると考えたマケールは、自分がどう変わろうが勝てないと悟った。そこで、彼はやり方を変える事にした。
「マケ…マケ!」
このやり方なら勝てるかも知れない。今回勝てずとも、勝つ糸口は見つかるかも。そう思い、マケールは穴を落ちて行った。