「マケール様、この私が、たかが男爵令嬢一人を排除する為に自ら屋上まで出向く訳が無いでしょう?そんな嘘に騙されるから、王の器では無いとされたのですわ」
またもや悪役令嬢に言われたい放題のマケール。そして、またもや悪役令嬢のセリフが微妙に違う。やはり時間が巻き戻ってるのでは無く、毎回パラレルワールドに飛ばされてるのだとマケールは確信した。
だが、それが分かった所でマケールがこの悪役令嬢との戦いに勝つのには一ミリも役に立たない。マケールを救ってくれるのは、女神から貰ったチートのみだ。
「マケ~!」
マケールは懐からカップ麺を取り出すと、蓋を開けてお湯を注いで三分待った。キッチンタイマーが三分たった事を知らせると、蓋を剥がし、割り箸を割ってカップ麺を一気に啜る。
「マーマーマーケー!」
カップ麺を食べ終えたマケールが雄叫びと共にグルグルと回転すると、それに合わせてマケールの身体がどんどん大きくなって行き、15m程の巨人へと変化した。
「マケーッ!」
圧倒的な体格差を手にしたマケールは、立ち上がりこの場に居る全てを踏み潰そうと動き出したが、天井に激しく頭をぶつけた。
「マケケケケ〜」
天井の破片の落下と共に崩れ落ちるマケール。その目には既に光は宿って無かった。
■ ■ ■
「お帰り。今回は早かったわね」
「マケー!」
天界に戻って来たマケールは地団駄を踏み悔しがり、デカくなったのなら肉体の強度もそれに合わせて強くなるもんやろがいと文句を言った。
「私が注文されたのは、身体を大きくするチートよ?本人が食事と鍛錬で肉体を大きくしたなら、それに合わせて強くなるけど、チートで大きくしても強くなる要素を混ぜなきゃ的が大きくなるだけなのよ」
「マケ…」
マケールは自分の頼み方が悪かったのだと反省し、それと同時に『チートは一つだけ』という制限が思ったよりもキツいと思い始めていた。
例えば、『一兆度の炎が吐けるチート』を得たとして、それだと肉体はマケールそのものだから、一兆度の炎を出した瞬間マケールが真っ先に焼き尽くされてしまう。
ならば、『一兆度の炎を吐く怪獣になるチート』ではどうだろうか?こちらなら、炎を吐いて悪役令嬢を王国ごとざまぁする事が可能だが、別の存在に置き換わった瞬間、マケールとしての個が失われる可能性が高い。つーか、多分そうなる。この女神の与えるチートの傾向的に。
「どーしたの?もしかして、ざまぁするの諦めたのかな?」
「マケ、マケマケ!」
サービスの終了を告げようとする女神を慌てて止めるマケール。とは言っても、次に貰うチートについては、さっぱり思い付かない。今はこうして女神にちょっとタンマと言い続け待って貰うしか…。
「マケ?」
ちょっとタンマ。もし、これが無制限に誰に対しても使えるなら無敵じゃないか?そう思ったマケールは次のチートについて考え始めた。
「マケ…、マケ!マケマケ?マケー!」
時を止める、触れた相手を動けなくする、周囲の敵を金縛りにする巻物、自分だけ倍速で動く、様々な候補が頭に浮かんではこれでは駄目だと考え直す。そして、マケールは一つの答えに辿り着いた。
「マケ…!『マケマケ』!!」
凄味のある顔でマケールは女神に振り向くと、欲しいチートを宣言した。