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チート1:名前を書いたら死ぬノート

「まあ、マケール様ったらおかしな事をおっしゃるのね。私はその時間ピアノを弾いていたのに、どうやったら男爵令嬢を階段から突き落とせるのでしょう?」

「マケ?」

 気が付くと、マケールは卒業パーティの会場に居た。女神が約束通り婚約破棄をした場面へ送ってくれたのだろう。

「マケール様、反論は無いのですか?無いなら、これは冤罪だという事で宜しいですか?」

 アリバイ証明をして勝ち誇る悪役令嬢を見て、マケールは自分が衛兵に引き摺られて会場から退場させられる少し前だと理解する。このままでは間違いなく、自分がざまぁされるのだろう。しかし、今のマケールには女神から貰ったチートがある。それを使えば、負ける事などある筈がない。そう思いながら、マケールはチートを発動させる。

「マケーッ!」

 雄叫びの共に右手を上げると、その手には一冊のノートが握られていた。これこそが、マケールが女神から貰ったチート、『名前を書いたら死ぬノート』である。

「は、はうあ!」

 ノートを見た悪役令嬢の顔が青ざめる。前世の日本人だった頃の知識をデフォで持っている彼女は、ノートを見た瞬間それが何かを大体察してしまったのだ。

「た、誰かマケール様を止めて!あのノートに名前を書かせてはいけない!」

 悪役令嬢は必死になって衛兵に呼び掛けるが、前世の記憶を持っていない彼等はノートを見てもピンと来なくて、マケールが名前を書くのを見た後に漸く彼を羽交い締めにした。

「マケーケッケッケ」

 マケールは心の底から笑った。既に悪役令嬢の名前はノートに書いた。後は効果の発動を待てば彼女は死ぬ。悪役令嬢さえ死ねば、王子である自分に兵達は従わざるを得ない。つまり、ざまぁする側になれる。

「マケー、マケー、マケー」

 顔面蒼白の悪役令嬢に向かって、勝利のカウントダウンをするマケール。そして、カウントがゼロになった時…。

「マケッ!!!」

 マケールは目を見開き動かなくなった。様子がおかしい事に気付いた衛兵が腕を取ると、脈が無かった。

「悪役令嬢様、コイツ何か知らんけど死んでます」

「何でぇ?」

 名前を書いたら死ぬノートは、名前を書いたら死ぬノートだった。マケールは名前を書いたら死ぬノートに名前を書いた。だから、死んだのだ。


■ ■ ■


「お帰り、残念だったわね」

「マケーーー!」

 天界に戻るなり、マケールは地団駄を踏みながら文句を言った。貰ったチートが思ってたんと違うと。

「でも、君言ったじゃない。名前を書いたら死ぬノートが欲しいって。私はそれを言葉通りに実現しただけだよ」

「マケッ…」

 それを言われたら何も言い返せないマケールだった。確かに、その言い方では、ノートに名前を書いた本人が死ぬノートだと解釈されても仕方が無い。

「ま、所詮君は私の作った人形だから、一度や二度のざまぁなんて気にせず、勝つまで色んなチートを使えばいいわよ」

「マケー?マケマケ!」

 女神の寛容さに感謝したマケールは、さっき酷い目に遭った事をケロリと忘れて、次に貰うチートを何にするか考える。数分後、マケールはとあるチートを女神に要求した。

「マケ〜♪」

 このチートなら絶対勝てる。少なくとも負けは無い。マケールはそんな風に思いながら、卒業パーティへと舞い戻る。


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