気が付くとマケールはデカい女の前で正座していた。初代国王の像よりデカいその女は、当然ながらマケールの知らない人だ。
「私は神。貴方が住んでいた世界を作った女神だよ」
「マケー!」
状況を理解出来ないマケールに、女が話し掛ける。その瞬間、マケールは白目を剥いて倒れた。
「あっ、ごめーん。声大きすぎちゃった。今、復活させるから待ってて。えーと、ドンブリドンブリ、ポットポット」
女神はラーメンのドンブリを床に置くと、そこに心肺停止したマケールを置き、熱湯を注いで三分待った。
「マケー!」
意識が戻ったマケールは、慌てて熱湯から飛び出す。三分間丸々熱湯に漬かっていたのに、大火傷を負っていない。(小火傷はした)
その事に気付いたマケールは、目の前の女が本当に女神、或いは神を自称する魔王か邪神と確信し、大人しく話を聞く為に正座し直した。
「さっきはゴメンね〜、ここに人間呼ぶの久しぶりでさ、加減が分からなかったのよ。今の音量なら大丈夫?」
「マケッ」
マケールは問題無いと頷いた。
「では、改めて自己紹介をしましょう。私は貴方が住んでる世界を作った女神。そして、私が君をここに呼んだのよ。ここに来るまでの事は覚えてるかしら?」
「マケ!」
マケールは、しっかり覚えていると女神に言い、自分は卒業パーティて婚約破棄した後にざまぁされてしまって目の前が真っ暗になって、気付いたらここに来ていたと説明した。
「うんうん、ちゃんと覚えているみたいね。でね、実は君が婚約破棄したのは私のせいなんだ」
「マケ?」
女神はラーメンのドンブリに炊きたての白米をよそいながら、衝撃の事実を語り出す。
「マケール君が住んでいた世界はね、君が婚約破棄してから君と悪役令嬢のどちらかがざまぁされるまでの歴史を何万回もループしてるの。よいしょっと。君は卒業パーティ以前の記憶もあるつもりみたいだけど、実際は十八歳の姿でこの世に生まれてるのよ」
「マケ?マケ?」
「何の為にそんな世界を作ったかって?そりゃ、こうして他人の不幸を安全圏から見ながら白米を食べる為よ。いただきます。はフッはふっ、マケール君と悪役令嬢さんは私のごはんのおかずとして生み出され、残りの存在は、ぜーんぶ舞台装置。それが貴方の世界の現実なの。うめっ、うめっ」
「マケー!」
あまりにも酷い真実を告げられ、マケールの顔色は白米よりも白くなった。対して女神はホクホクの笑顔で白米を食していたが、その笑顔もよく見ると目が笑っておらず、心からの喜びは感じられないものだった。
「でもね、最近飽きてきちゃったのよ。ここの所、いっつも悪役令嬢が勝ってばかりだもの。だから、ちょっとテコ入れする為に、マケール君にチートをあげる事にしました」
「マケ?」
「まずは、マケール君に現代日本の知識をあげます。前のアップデートで悪役令嬢にあげた前世知識と同じヤツよ」
「マケエエエエ!」
マケールの脳に電流が走り、彼は2024年までの日本知識を得た。
「よし、上手く行ったわ。でも、これだけじゃあ悪役令嬢がまだ有利よね。だって、マケールは婚約破棄馬鹿王子だもの。卒業パーティで婚約破棄する愚か者として、あちらの世界に生まれ落ちるのだから、知識が互角なだけじゃあ圧倒的不利よ」
「マケ、マケ」
現代日本の知識で賢くなったマケールは、そんな世界にした女神が悪いのではと思ったが、怒らせてはいけないと思い、ただ頷いた。
「そこで!何でも好きなチートを一つだけあげちゃう!今のマケール君には、色んな能力バトル作品の知識とかあるでしょ?君が考える最強の能力を持って婚約破棄すれば」
「マ…マケ!」
「そう、勝てる!君はハッピーハッピーで、私は久しぶりに悪役令嬢の負け顔を見てメシが旨い!さあ、選びなさい。貴方の考える最強のチートを」
マケールは脳内に浮かんだ様々な作品のチートから一つを選んだ。すると、彼の足元に穴が開き、一瞬空中に浮いた後穴の中へ落ちて行った。
「マケエエエ!」
「行ってらっしゃーい。私はここでテレビで見てるから」
こうして、マケールの長く辛い挑戦が始まったのであった。そう、この勝負はチートを貰った上でマケールは負け続けるのだ。何故なら、彼は卒業パーティで婚約破棄する頭の悪い王子として設定されているからだ。チートとは、主人公やラスボスが持ってこそ光り輝くものである。マケールがそれを手にした所で上手く扱えるはずが無いという事にはマケールも女神もまだ気付いていなかった。