翌日の雪のクラスの教室はざわついた。担任の熊谷先生に素直に髪色を直してきますと言ったはずの雪の髪は昨日よりも
派手になっていた。金髪から何色になったかと言うと、
今流行りの上の方は黒目で耳から下はインナーカラーの銀色に染めていた。
中学時代にしっかりと親にも先生にも反抗できなかったのが今になって出てきているのだろう。
その姿を見て、亜香里はさらに雪を掘れ直す。どうして、こうにも悪ぶっている人の方がモテるのか昔も今も変わらないのか。
ガリ勉タイプの度数の高いメガネをかけている陰キャラの男子はメガネをくいっと直してため息を漏らす。
「雪ちゃん、その髪型最高だね。私、本当に黒髪に戻してくるのかと思ったよ」
「……何か、今楽しまなくていつ楽しむのかなって思って…
風紀委員のチェックもあと1週間先だし、今のうちだなって思ってさ」
「あー、確かに。来週なれば戻せばいいよね。
良い考え。それにしても、自分で染めたの? 綺麗に染まっているね。私のもやってほしい。良いよ,今度家に来た時に……」
思ってもないことを言った。本当はテリトリーでもある部屋に
入れたくないって思っていた。でも、話の流れでそうきたかと返さざる得なかった。
「本当に?! んじゃ、今度、好きな色のヘアカラー買っておくね。あ、でも、雪ちゃんの好みのカラーにしたいから一緒に買い物行こう?」
「……うん。いいよ」
自分で決めろと内心思っていたが、軽く返事した。結構優柔不断な由香里に対応が疲れてきた雪だった。後ろから
「全然かっこよくない……」
瑞希が後ろからボソッと言う。由香里がその声を聞いて、ご立腹だ。
「は? なんであんたがそんなこと言うのよ」
「いや、俺はごもっともって思うよ。自分でもそう思ってるし……」
雪が言う。
「ほら」
瑞希はドヤ顔だ。
「えー、今流行りでめっちゃかっこよなのに……」
そこへ教壇の上に熊谷先生が立った。
「ほらほら、ホームルーム始めるぞー。って、おい、真ん中らへんに座る銀髪のやつは一体誰だ??」
出席簿を置いて、しばし体が固まった。
「漆島……雪です……」
「お前なぁ……髪直すって言ってただろ。てか、前よりめっちゃかっこいいけども」
雪はそれは誉めているのかと首をかしげた。
「えーー、先生。今流行りの髪わかるんですか?」
和史が聞く。
「な、俺だってSNSくらい見るからな。流行りには敏感だぞ。
このダンスだって踊れるんだから」
「あ、マッシュルだ」
「先生すごくない? キレキレダンスだし!!」
由香里が叫ぶ。
クラスのみんなが先生のダンスに賞賛の嵐だ。
「だろ?てか、漆島。風紀委員の日までには戻せよ。はい、小テスト始めますーーー」
普通の対応に戻る。みんな盛り上がっていたのにつまらない顔をした。
「マジかーーー。最悪ーーー。抜き打ちだし」
「先生、鬼だーー」
クラスメイトたちはカリカリと小テストに真剣に向き合った。
先生は深く雪にとがめることはなかった。そういう時期なんだろうと受け止めた。小テストを回収する時間になった。窓の外では2羽のスズメたちが飛び立っていった。