ある日の帰りのHRの後に担任の熊谷先生に雪は呼び止められた。ざわざわと教室内はクラスメイト達が動いている時だった。亜香里は雪のことが気になって、隣に移動する。廊下に着くと改めて、熊谷先生は雪と向かい合った。
「あのさ、漆島。今更ながら、言うんだけど、その髪型どうしたんだ? 両耳のピアスも。風紀委員の日は黒に染めて、ピアスも外してくるようだけど、それ以外は全部、そのブリーチしているよな? ……何かあるのか?」
シリアスな雰囲気で真剣に聞く。本当は喉から手が出るほど助けてほしいと言いたかったが、言えなかった。海の深い深い底の奥にあるように心の中は見せることはない。冷酷な目つきで、雪は答える。
「先生、わかってたなら、もっと早くに聞けばいいじゃないですか。今更ですよ」
「え?」
「先生、全然雪ちゃんは問題ないよ? 私の彼氏だから!!」
亜香里は雪の隣でしっかりと腕を掴む。あまり嬉しそうな顔をしていないが、ニコッと心にもない笑顔で対応する。
「あ?嘘。漆島と石川が付き合ってんの?」
「そうですってさっきから言ってますよ」
「あーーー、そういうこと。おかしいなぁ、1年の時の交友関係には石川の名前なかったけど、あーまぁ、そういうこともあるんだな。でもなぁ、身だしなみがなぁ」
腕を組んでため息をつく。雪は、何の表情を変えずに黙って見ていた。
「えーー、いいでしょう。かっこいいじゃん。金髪。ピアスだって、風紀に引っ掛からなければいいんでしょう?」
「あのな、それなら警察いないから犯罪犯していいでしょうって言ってるのと同じだろ。授業中、普通に金髪だし、ピアスだってじゃらじゃらだろ。みんな先生たちわかってるからな。まぁ、雪の場合は成績は悪くないから他は何もあーだこーだ言えないだけどさ。 石川はきちんと勉強しろよ」
「えーーー、急にこっち? 私じゃなくて雪ちゃんの話でしょう」
「そうだ、漆島が石川に勉強教えてやればいいだろ。そうすれば問題ない。ただ、なるべくだったら金髪はやめてほしいかな。」
「……わかりました。髪色直しておきます」
雪は素直に聞き入れたが、横にいた石川は不満そうな顔で口を膨らませていた。担任が立ち去った後,
雪のそばの廊下を綾瀬 桜が通りかかる。
雪の顔を見ても、何の反応もなかった。確かに目が合ったのに興味もないみたいだ。石川との関係よりも桜の態度がすごく気になった。雪と桜は別れていたが、無視されるのはものすごく辛かった。どうして無視をするのだろう。元カレとして、手をふる動作でもすればよかっただろうか。振ったのは自分の方なのに桜に対する想いがまだ残っている。
雪は、桜の顔を久しぶりに見て本当の笑顔を一瞬だけ取り戻した。たとえ、桜とよりを戻しても桜とはクラスが違う。教室での自分はひとりっきり。それを考えただけで闇に落とされた気分だ。
無表情の顔のまま亜香里に腕を掴まれながら階段を降りて行った。