風邪だと嘘をついて一日ベッドの上で爆睡した。体と心の疲れを取るためだ。忙しくなく生活していて人間関係が1年頃と比べてかなり変わっていた。
親友だと思っていた亮輔とはラインのスタンプを週に1回送り合うくらいで電話もメッセージを送るのもなかった。石川亜香里の周辺に座るクラスメイトとの関わりが増えたのだ。
カーストで言うところの上層部。生徒会で言うと生徒会長みたいな、陽キャラ達の仲間に入った。今まで見たことのない景色だったが、見た目だけ変わっただけで、雪の内面は全然前と変わりない。陽キャラになろうと努力していたが、相槌と打って、聞いてるだけでなぜか成立していた。居場所があった。
誰でも話を聞いてくれるだけで嬉しいものなのだ。
それは陰も陽も変わりない。真剣な眼差しの雪を嫌う理由は
見つからないのだ。今までどうして、この空間に入れなかったんだろうと不思議で仕方ない。どんな場所でも人間であることに変わりはないし、カーストと言われているけども結局はグループ仲間との相性の問題だ。その中で会話に参加し、大きな声でゲラゲラと笑っているだけで陽グループと判断される。ここに自分はいていいものだろうかと疑問が生じることもある。
「雪ちゃん,聞いた? 和史、昨日、やらかしたらしいよ」
「え、あ、ごめん。左指のささくれが気になって聞いてなかった。もう1回言ってくれる?」
ギシギシになった金髪がそろそろプリンになりつつある。
雪は枝毛も気になり始めた。由香里の左隣に座る
「なぁ、漆島ってさ、去年までそんな風貌じゃなかったよな?」
「えー、あー、うん。黒髪で陸上に黙々と参加していたね」
亜香里が代わりに答える。
「なんで、2年になってそんな色も脱色してピアスなんて開けて、ここにいるわけ? ありえないだろ」
「和史、私が雪ちゃん変えたのよ。心から。体で教えたの」
亜香里が大胆に話す。和史が顎が外れるくらいに大きな口を開けた。雪は亜香里の声も気にせず、ひたすらささくれを取ろうと必死だった。
「マジかよ。何、おまえら。もうそんな関係なわけ」
後ろの席にいた瑞希が反応して、急に椅子を動かしては教室を黙って出て行った。桜と結ばれなくて、由香里と結ばれるなんてと何だかモヤモヤと落ち着かなかったのだ。自分はもう、雪と恋人には戻れないとわかっていた。トイレに行って、気分転換しに向かった。
「そうだよ。だって、2人で1つになれば変わるっていうじゃん」
「別に言わないけどさ。俺が亜香里と付き合ってないのに
先に漆島に先越されるとはね。朱に交われば赤くなるってことかよ。んじゃ、亜香里、今度は俺とどうよ」
「は? まだ付き合ってるっつーの。別れたら考えなくもないけど、ラブラブ真っ最中だから、ね?雪ちゃん」
「ごめん、ちょっとトイレ行ってくる」
雪は、亜香里の話を聞かずにトイレに向かった。話を聞きたくないわけじゃなくて、普通に尿意をもよおしたのだ。
「おいおいおい。本当に付き合ってるのか?
お前、好かれる感じしねーぞ。」
「そ、そんなことないもん。週に2回はしてるもん。雪ちゃん、めっちゃ優しいんだから」
「は? 何それ。週2回パートタイム勤務かよ」
「私はあんたのお母さんじゃない!!」
「誰がおふくろ言ったかよ。なんでそんなできるのかって話だ」
「いつも、学校帰りに都合あえば、あたしんちか、飲み屋街近くのホテルいくよ」
「あー、そう。そこまでのめり込んでるのね。全く、陰キャラそんなにして、大丈夫かよ。別れるってなったら、取り返しつかないんじゃないの?」
亜香里と長谷川和史は中学からの付き合いでお互いの交友関係は家族ぐるみで知っていた。交際相手には絶対ならない関係だった。
「大丈夫だよ。今のところ、歴代彼氏より長く付き合ってるから」
「最長なんぼよ」
「え? 1ヶ月?」
「早すぎるだろ。お前。とっかえひっかえ……。まぁ、俺の知ったこっちゃないけどな」
「そうだよ、私のことはいいから。和史には美香ちゃんっていう可愛い子がいるんだから、放っておくなって」
「おう、まあな。しかし、まぁ、あれだ。漆島のメンタルには気をつけろよ。わかるだろ? 中学時代知ってるなら」
「それは過去でしょう。私は今しか見てないから」
「あー、そうですか」
和史は亜香里の譲らない性格にはついていけないと話をするのをやめた。そこへ雪が戻ってくる。
「雪ちゃん、おかえり。今日も一緒に帰ろうね」
「あ、うん。そのつもり」
「うん」
亜香里は雪の腕をしっかり掴んでベタベタしはじめた。
「おい!!そういうの、よそでやって」
見かねた和史が言う。亜香里が冷や汗をかいて、雪を連れて
ベランダに移動した。言われるがまま、過ごす雪は無表情のまま空を見た。今見ている空に浮かぶ雲はとても灰色で深い。
もう少しで雨が降るのだろうか。