石川亜香里が家に宿題と板書ノートを持ってきてから3日は経った。自然とラインの連絡先を交換して、何か話したいことがあったら取りあおうと彼女は言った。
石川との濃密な絡みがあってから新たな自分に生まれ変わった気がして、気分が高揚した。急にドラッグストアに行って、
髪を染める薬剤買ってきては、真っ黒の髪からブラウン系のヘアカラーに染めた。ヘアワックスをつけて、髪を立ち上げて、
サイドの髪をうまい具合に流した。
両方の耳たぶにピアッサーで穴を開けて、ピアスをつけたくなった。
自分が自分じゃないくらいに態度も堂々と、何となく、陰キャラだった雪は、石川との交流で、陽キャラになった。
ずっと、風邪だと嘘をついて休んでいたが、髪を染めて、ピアスを開けて、前とは違う自分に変身した雪は、態度も堂々と学校に何もなかったように登校した。
クラスメイトはもちろん、1番驚いたのは亮輔だった。亮輔でさえも真っ黒の髪でピアスなんてこれっぽっちも興味なかった。雪の変わりように顎が外れるようだった。休み時間のトイレに行こうとして、廊下ですれ違った時は、雪は亮輔を眼中になしで通り過ぎた。もう、雪の中で亮輔も桜も切り捨てたのかもしれないと亮輔は想像した。
思い切って声をかける。
「雪!!」
その声に反応して、ふと振り返る。亮輔の顔を見て、口元を緩めた。今の雪にとっては笑顔にすることしかできなかった。学校というフィールドで生き抜く術は陽のキャラでいることなんだと石川亜香里から教わったのだ。絶望からの脱却の道を作ってくれた。雪は亮輔の声に笑顔を見せるだけで何も言わずに立ち去った。
さらに声をかけようとしたが、諦めた。変貌した雪になんと言えばわからなくなった。
クラスが違うというだけでこんなに雪の心が揺さぶられるのかと亮輔はがっかりした。
気持ちが落ち着いたら、いつかまた一緒に過ごせるだろうと今は遠くで温かく見守ろうと決意した。
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雪は、本来ならば、石川亜香里のように陽キャラを演じたくない。自分じゃない誰かになるなんてオンとオフを使い分けないといけない。
でも亮輔も桜もいないクラスで1人になるのはものすごく怖かった。ぼっち飯に戻るのは嫌だった。その状態に戻るくらいなら、石川の要望に従った方が自分自身も満足するんだろう。
ホームポジションがない今、石川亜香里が仮のホームポジションと考えて、1年間過ごそうと理性を失った時に決断した。
「雪ちゃん。帰りにおしゃれなアイス屋さんに行きたいな」
部活をろくに参加しないで石川亜香里と
同じ帰宅部になった。
学校帰りに電車に乗って、ゲーセンやカラオケ、カフェ、アイスクリーム屋に寄り道するのが日課になった。むしろ、帰りがけにあるわけではなくてお出かけに近い。つまりはデートだ。
いつもお金を出すのは石川亜香里だ。バイトしてるわけじゃない。雪もバイトはしてない。どこにそんなに出かけるお金があるのか、由香里の親は要求しなくてもお金だけは不自由なく用意してくれるらしい。由香里はどんなにお金を積まれてもいつも心が満たされていない。雪にべったりと腕にしがみつき、完全なる彼氏彼女の状態だ。お出かけした後は、決まって、飲み屋街の近くにあるピンクの建物に由香里は雪を連れて行く。彼氏が途切れたことのない由香里は行き慣れていた。
由香里の誘惑に断れない。雪は、もう、抜け出せない空間に吸い込まれている。
学校帰りに週に2回は行くことになった。もちろん、言われるがまま、体を重ねては由香里を満足するまで相手した。
雪の真っ黒だった髪は徐々に茶色から金髪のブリーチをして色を抜くほどだった。由香里はこんなに受け入れてくれる人だと思わなかったため、泣きながらガッチリと離さずに抱きしめた。
「雪ちゃん、ありがとう。こんなに一緒にいてくれた彼氏は雪ちゃんが初めてだよ。私、もっと早くこうやって雪ちゃんと付き合ってればよかったね。」
「……そっか」
無表情の雪は心から笑ってはいなかった。
由香里のロボットのように言うことの聞くような彼氏を演じていた。雪本人にとっては教室に1人になるより相手に対する気持ちがないより誰かが一緒だから良いと思っている。
由香里からいじめられているわけじゃない。
むしろ好かれている。性の欲求を満たしてあげている。自分も多少満たすが、心からの愛はない。
雪は変わった。ネガティブに考えることは少なくなったが、苛立ちが増えていく。
部活はほぼ退部して、勉強はできるが、やっていないだけ。面倒になっている。テストだけはしっかり受けていたが、本当にこのままでいいのかと自問自答していた。
英語の宿題ノートを机に顔をうなだれてそのまま朝を迎える。
雀の鳴き声で目が覚めた。
由香里の相手も慣れてきたが、なぜか今日は学校行きたくない。そのまま机の上でまた眠りについた。