ふとんは友達。本当に裏切らない。暑くなっても今では冷感接触という機能がついていて、夏でも心地よくしてくれる。
いらないことはない。もちろん冬はものすごく暖かい。
でも今は春だが、夏に近い。早くも心は荒んでいる。ふとんはクラスメイトより優しい。心を救う。ずっとこのままふとんの中で過ごしたいものだ。
でも、ずっと寝てるわけにもいかない。テントとようにふとんに潜った雪は、ベッドに横に置いていたスマホをタップした。
午前10時。
みんな学校で授業を真剣に受けている
時間だろう。もう、その時間と学校という想像をするだけで
嫌気がさす。学校なんてなければいいのに友達なんて気の合う人だけいるわけない。仲良くなったと思ったら、さっぱりと話さなくなることもある。
かと言って、仲良くなりすぎて、離れていくと寂しすぎて、
うさぎのように死んじゃいそう。
心が全然満たされない。
だったら、誰もいない方がいい。1人の方が楽なときある。
勉強なんて、教科書を見ながら動画配信で独学してしまえば、わかってしまう。通信教育や、塾だってある。
日本語で書かれたいろんな本をとにかく読み漁れば、わからない問題なんてある程度は解けるのだ。
何のために学校に行くのかわからなくなる。母親には、人間関係を勉強するためだとかいう。
そんなの学ぶ前を心を殺される。牢獄か、地獄にいるようなところなんで行くんだと嘆くことばかりだ。
それでも必死で高校2年目の春。頑張って通学してきたが、石川亜香里の関わりで心が折れそうだった。
部屋の中、1人でいると、インターフォンが鳴ってすぐに階段を登る音がして雪の部屋のドアが開いた。
「お邪魔します……」
バタンとドアが閉まる。雪は、ベッドのふとんの中、無反応だった。
「雪ちゃん?」
声を聞いて、すぐにわかる。絶対にふとんから出たくない。
その声の主は、石川亜香里だったからだ。
「突然、来て、ごめんね。学校来れないのは、私のせいかなと思って、休みの間の板書ノートと、宿題。先生から預かってきたんだ。この机に置いてていいかな」
いつもよりおとなしい。声のトーンもどこか真剣で、石川らしくなかった。それがなぜか気になって、雪はふとんから少し顔を出した。
「……あ、元気そうだね」
「……なんで?」
「え、あー。対応が違うってことかな」
「うん」
「ちょっとね、気持ちが変わったというか」
「……」
ふとんからばさっと部屋着の姿で石川の前に出た。
「私、雪ちゃんが羨ましいのよ。肌白いし、男の子なのにさ。
私なんて色黒だし。女の子みたいなのにモテるし。あの双子姉妹から? ちょっとどんなものかなって気になってしまったんだ。不純だけど……でも、何か、一晩考えたら本気になっちゃった。ねぇ、優しくするから私じゃダメ?」
ベッドの上に迫っていく。雪は後ずさりして、壁に追いやられた。
「え、いや、その。別に、色黒でもいいじゃん。個性でしょう。白くないといけない理由なんてない。俺はただ、肌が弱いだけで……。ちょっと、ごめん。顔近い……」
ワイシャツのボタンを外して、迫る石川亜香里に逃げ惑う雪。
隙間から見える胸の谷間がドキドキしてきた。男たるものこれは止められない衝動なのか。
「私、雪ちゃんなら、いいよ。大丈夫、やり方知ってるし。
誘導するよ?」
「な、な……ちょっと。マジ勘弁して」
頬を赤くして、言葉と行動は不一致になる。理性が飛んでいく。いつもと違う石川亜香里の態度に拍子抜けした。乱暴な言葉を使っていないし、すごく優しい言葉を発している。たったそれだけで心が救われた気がした。
数時間したら、もう雪は新たなステージに立っていた。
昨日とは違う大人への道に入っていく。恋心として、好きになったわけじゃない。ただ、今一瞬を救ってくれた人として、自分の身を預けたと言っても男たるもの誘導されたって、リードしたのは雪だった。
大量の汗をかいた。石川亜香里も満足していた。
「雪ちゃん」
寝転んで、息を荒くしたまま、雪の手を繋いだ。
「順番逆になったけど、付き合おうね」
「……うん」
好きなわけじゃない。断ったら、何かされるじゃないかという
恐怖心が残っていた。でも優しく話す石川なら、受け入れられると思った。桜とのクラスが違うことによる、心の寂しさ埋められると感じていたのだ。腹黒くてダメなやつだと思いながら、どうにでもなれと雪は石川亜香里と付き合うことに決めた。
うつ伏せ同士にベッドの上で手をぎゅっと握った。