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第63話 雨水がたまっていく

学校について、机の上にバックを置く。また授業が始まる。

何となく、モヤモヤした感覚。


それぞれグループのできた教室。会話できる友達がいない。

たくさんの人の中の孤独。教室に取り残された気分だ。

ここだけ、小さな島にでも来てるのだろうか。別に1人で過ごすのは慣れている。休み時間は、イヤホンをして、音楽聴いたり、好きな本を読めば、空間は居心地のいいはずだ。


窓際の席の石川亜香里が声をかけなければ。


「雪ちゃん。今日も1人かなぁ。寂しいね。瑞希も桜も相手してくれないのかな」


亜香里は立ち上がり、雪の顎をくいとあげた。スカートから見える太ももが机に乗っている。


「やっぱさ、男子だけど肌白いよね。ねぇ、雪ちゃん」

「……やめろよ」

「やーだ」

「いいから!!」


 とても不愉快になった雪は、石川亜香里の腕に手で避けた。かなりの至近距離だ。


 こんなに間近に石川亜香里が来たことはない。髪がセミロングでつけまつ毛なんてつけていたなんて知らなかった。


嗅いだことのないシャンプーの匂いが漂う。近づくんじゃない。今の雪にとってはこの距離には耐えられない何かがあった。制服のネクタイをぐいっと引っ張られた。顔が想像を絶するくらいに近づいた。


 不意に唇が温かくなるのを感じる。


「そんなに女子2人から好かれるんなら私だって手に入れても問題ないよね?!」


石川亜香里の言ってる意味がわからない。今何をしたのか。

雪は座っていた椅子を膝の裏で推して、後退した。衝動的にトイレに駆け出した。たくさんのクラスメイトがいる前で

何かが起こった。


バシャバシャと洗面台で顔を洗う。鏡を見ると水が滴り落ちていた。タオルなんて持っていない。この状態どうしようと悩んだ。


(俺は今、一体どこにいて何をしたんだ)


時間が狂ったみたいに気持ちが落ち着かなかった。

その頃の教室では、


「ちょっと、由香里ぃ。教室でそういうのしちゃうの大胆じゃない? 雪ちゃん、びっくりしてたよ」

「えー、だって、絶対初めてじゃないでしょう」

「そりゃぁ、そうかもしれないけど」


 石川由香里の隣の席に座る齋藤芽衣子さいとうめいこが叫ぶ。


「どうだった?」

「てかさ、雪ちゃん。やっぱ、男子だけど女子みたいだよね。

肌間近で見たんだけど、超白いの。羨ましいくらい」

「うん。名前も雪っていうくらいだもんね。てか、由香里、雪ちゃん好きなの?」

「かわいいじゃん。いじりたくなるよね」

「……由香里、盛ってるもんね。今彼氏と別れたばかりだから」

「ちょっとぉ、大きな声で言わないでよ。これでも傷ついてるんだよ」

「どこがよ、自分から振ったくせに」

「えー、だって、気になるものできちゃったからさ」

「はいはいはい。女豹がいますよここに。みなさん!気をつけてくださいね」


 芽衣子はクラスメイトの男子生徒たちに叫んだ。みな、ドキドキしながらチラチラと由香里を見る。


「男子、こっち見るんじゃないよ!!」


由香里は振り払うように腕を振った。さらりと元の状態に戻っていく。由香里は、席に座って、頬杖をつく。


(雪ちゃん、中学から絡んできたけど。興味湧いてきたな。楽しみになってきた)


 瑞希は窓際の後ろの席で1人お弁当を食べていた。教室内の一部始終を見ていた。雪と由香里の関わりを見て、気持ちは穏やかではなかった。晴れていたと思っていた外は急に雲行きが

怪しくなり、大雨になっていた。校舎の隅の側溝に雨水がどんどん溜まり始めていく。

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