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第62話 釈然としない気持ち

駅のホーム。ベンチに座った。桜は、ホームに風が吹きすさぶのを眺めていた。どこからともなく、飛んでくる桜の花びらが舞っていた。


うぐいすが鳴いている。春で清々しいはずだった。でもなんでこんなにモヤモヤしてるんだろう。


空を見上げると晴れているから雲が無いのかと思ったら、もくもくと綿飴のような雲が広がっていた。時々、雲で太陽が隠れている。少し寒く感じるのはそのせいかと思った。


ふと、ワイヤレスイヤホンが耳から落ちた。


横を見ると、雪が桜の隣に座った。何も言えなかった。桜は、深呼吸する。



「桜、聞いて欲しいんだけど……」

「え、何?」


神妙な面持ちで雪は桜をまっすぐに見つめる。


「俺たち、別れない?」

「……」


その言葉に息をのんで何も言えなくなった。


「……」



その言葉を発した雪も黙った。


「な、なんで……?」


 やっとこそ言えた言葉に雪はほっとした。桜は涙が出そうになるが、ぐっと堪えた。2人の間に強い風が吹いた。どうしてよりにもよってこういう時に同じ車両なんだろうと思った。


「楽しく過ごしたいだろ? 高校生活」

「……え?」


 2番ホームに2人が乗る車両が到着した。発車時刻までまだ時間はある。


「俺のこと考えるのやめた方がいい」


そう吐き捨てて、バックを肩に背負い直して、雪は車両に乗り込んだ。何の返事もできずに雪は行ってしまった。桜は我慢していた涙をその場で流した。手でこぼれた涙をすくおうとしたが、すくえなかった。手がびしょ濡れになる。桜は、どうしてそう言うことを言うのか理解できなかった。



桜の姿を見ることもなく、雪は後ろ向きのまま車両に座って、有線イヤホンを耳につけた。いつもの好きな曲をかけるが、なんだか落ち着かない。こんなはずじゃないって思っていた。心がぽっかりと開いてしまう。本当はこの手から離したくないくらい好きなのに素直になれない自己肯定感が下がっている自分に好きになってもらう資格なんてない。女子と過ごす方がいいんだろうと思ってしまう。


瑞希とほんの過ごしただけで疑われてしまうことに悔しかった。おとげないってわかっていてもモヤモヤした気持ちを埋められない。


ただでさえ、教室では孤立している。

心は満たされてない。



中途半端な救いがあるよりまるっきり1人で過ごす方が楽だろうと考えた。亮輔との絡みもまるっきり減った。友達とは思ってないが、変に絡んでくる石川由香里くらいだ。



本当は逃げたいくらいでいっぱいだ。きっと暗黒の高校2年生を過ごさなければならないんだろう。



戒めのように雪は1人で心に決めていた。



まさかこの決断が良くなかったなんて後から知ることとなる。


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