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第59話 友達か彼氏か

陸上部の活動は校庭のトラックを利用して、

短距離走や長距離走をしていた。


3年の遠藤部長と杉崎副部長が卒業してしまい、プライベートなことまで話せる部員がいなくなってしまった。

新しく部長になった3年の佐々木幸子部長は、人見知りで部活動以外のことは何も話さない。

なぜか、雪は、副部長になってしまっていた。


「漆島くん、申し訳ないけど、私明日、通院だから部活来れなくて頼んでいいかな」


早速、副部長の仕事が回ってくる。


「ああ、仕方ないですよね。いいですよ」

「ごめんね、部長の私がしっかりしてなくて……」

「いや、病院は別にサボりではないのでいいじゃないかと思いますよ。気にしないでください」

「そう、月1回だけなんだけどさ。ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ」

「いえ……」


3年の部員が佐々木部長しかいない。

2年である活動時間が長い雪が

自動的に副部長だ。

陸上部の部員は年々減りつつある。

大して、記録が伸びてないのも原因の一つかと

がっかりする。


トラックのライン引きに

集中すると風が吹いて、砂が体に当たる。

春は風が強い。

遠くで、吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。


もうすぐ、野球部の試合に応援に行くと桜から聞いていた。あれから順調に部活に専念できてると聞くと、彼女である桜が羨ましく感じる。友達が少ないと改めて、感じてしまう。


自己肯定感が下がっている。

早く部活が終わってほしいと思いながら、

50mの走り込みを何度も繰り返した。

タイムはいつまで経っても縮まらない。


いつ間にか、校舎の電灯が光り始めていた。もう、1日が終わる。




「じゃあねー」


 生徒たちが行き交う昇降口では、別れの挨拶を言い合う生徒たちで賑わっていた。

靴を履き替えて、ラウンジの飲み物を買いに向かう。ついで、桜が部活終わりに通りかからないかと待っていた。


「それでね、昨日のドラマ見てて思ったんだけど、菊地くんにそっくりだったんだよ」


「へーそうなんだ」


 渡り廊下を歩いていたのは桜と同じ部活の友達のようだった。話が盛り上がっているようだ。


「あ、雪。ごめんね。今日、美佳子と一緒に帰る約束しちゃったんだ。また明日、一緒に帰ろう」


 彼氏よりも友達付き合いを優先する桜に内心イラっとするが、そこはぐっとこらえて、笑顔で見送った。


「いいよ。友達も大事だから。んじゃ、また明日」


思ってもみないことを発言して、いい彼氏を演じる。


「え、優しい彼氏だねぇ」


友達の美佳子は、雪を褒めていたが、本人は全然嬉しくなさそう。それはそうだ。本当は彼女とべったり一緒にいたかったの

だから。手を振って、別れを告げる。そこへ、瑞希が通りかかる。


「あれ、漆島くん。どうしたの? 1人? 桜は?」

「……帰った」


 瑞希には本音を見せられる。思いっきり不機嫌そうな顔でアピールした。


「ハハン、なるほど。振られたね」

「振られてない!!」

「仕方ない。一緒に帰ってあげるよ」

「なんだよ、それ。何様?」


「瑞希様!!良いから。肉まんおごってもらうから、一緒に帰るよ」

「え、それ、逆だろ。俺がおごられるんだろ」

「ううん。一緒に帰ってあげるんだから。奢ってもらわないと!!」

「ちぇ……」


そう言いながらも、なんとなく少し寂しさが和らぐ雪だった。

瑞希は、肉まんが食べられることに喜んでいた。



桜は、女友達と一緒に帰ることが珍しかったため、新鮮で楽しんでいた。そういう時間も大事だなと改めて、雪の言葉が響いた。

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