陸上部の活動は校庭のトラックを利用して、
短距離走や長距離走をしていた。
3年の遠藤部長と杉崎副部長が卒業してしまい、プライベートなことまで話せる部員がいなくなってしまった。
新しく部長になった3年の佐々木幸子部長は、人見知りで部活動以外のことは何も話さない。
なぜか、雪は、副部長になってしまっていた。
「漆島くん、申し訳ないけど、私明日、通院だから部活来れなくて頼んでいいかな」
早速、副部長の仕事が回ってくる。
「ああ、仕方ないですよね。いいですよ」
「ごめんね、部長の私がしっかりしてなくて……」
「いや、病院は別にサボりではないのでいいじゃないかと思いますよ。気にしないでください」
「そう、月1回だけなんだけどさ。ありがとう。そう言ってもらえると助かるわ」
「いえ……」
3年の部員が佐々木部長しかいない。
2年である活動時間が長い雪が
自動的に副部長だ。
陸上部の部員は年々減りつつある。
大して、記録が伸びてないのも原因の一つかと
がっかりする。
トラックのライン引きに
集中すると風が吹いて、砂が体に当たる。
春は風が強い。
遠くで、吹奏楽部の演奏が聞こえてくる。
もうすぐ、野球部の試合に応援に行くと桜から聞いていた。あれから順調に部活に専念できてると聞くと、彼女である桜が羨ましく感じる。友達が少ないと改めて、感じてしまう。
自己肯定感が下がっている。
早く部活が終わってほしいと思いながら、
50mの走り込みを何度も繰り返した。
タイムはいつまで経っても縮まらない。
いつ間にか、校舎の電灯が光り始めていた。もう、1日が終わる。
「じゃあねー」
生徒たちが行き交う昇降口では、別れの挨拶を言い合う生徒たちで賑わっていた。
靴を履き替えて、ラウンジの飲み物を買いに向かう。ついで、桜が部活終わりに通りかからないかと待っていた。
「それでね、昨日のドラマ見てて思ったんだけど、菊地くんにそっくりだったんだよ」
「へーそうなんだ」
渡り廊下を歩いていたのは桜と同じ部活の友達のようだった。話が盛り上がっているようだ。
「あ、雪。ごめんね。今日、美佳子と一緒に帰る約束しちゃったんだ。また明日、一緒に帰ろう」
彼氏よりも友達付き合いを優先する桜に内心イラっとするが、そこはぐっとこらえて、笑顔で見送った。
「いいよ。友達も大事だから。んじゃ、また明日」
思ってもみないことを発言して、いい彼氏を演じる。
「え、優しい彼氏だねぇ」
友達の美佳子は、雪を褒めていたが、本人は全然嬉しくなさそう。それはそうだ。本当は彼女とべったり一緒にいたかったの
だから。手を振って、別れを告げる。そこへ、瑞希が通りかかる。
「あれ、漆島くん。どうしたの? 1人? 桜は?」
「……帰った」
瑞希には本音を見せられる。思いっきり不機嫌そうな顔でアピールした。
「ハハン、なるほど。振られたね」
「振られてない!!」
「仕方ない。一緒に帰ってあげるよ」
「なんだよ、それ。何様?」
「瑞希様!!良いから。肉まんおごってもらうから、一緒に帰るよ」
「え、それ、逆だろ。俺がおごられるんだろ」
「ううん。一緒に帰ってあげるんだから。奢ってもらわないと!!」
「ちぇ……」
そう言いながらも、なんとなく少し寂しさが和らぐ雪だった。
瑞希は、肉まんが食べられることに喜んでいた。
桜は、女友達と一緒に帰ることが珍しかったため、新鮮で楽しんでいた。そういう時間も大事だなと改めて、雪の言葉が響いた。