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第55話 大切な青春の1日

キャップ帽を目深かに被った2人は平日の学校がある日に堂々と街中に繰り出した。


制服だとバレるだろうと思い、私服に着替えて出てきたら

誰にも怪しまれない。そうじゃないとしても誰も何も怪しまない。みんな人のことを考えるほど暇じゃないって知ってるのに周りを気にするのは仕方のないことか。


都会の喧騒が深呼吸すると良い空気な気がしてきた。本当は排気ガスで汚れているはずなのに、学校という空間に囲まれているよりマシだと言うのは異常なのか。


亮輔は、久しぶりに出てきた街に興奮を覚えた。勉強の時間ばかり取っていて、リフレッシュの時間さえとることもなかった。雪は横で見ていて、ホッと一安心していた。


「亮輔、発散するの、大事だぞ」

「ああ、そうだな」

「休むのも勉強のうち」

「え? それを言うならば、休むのも仕事のうちって話じゃなくて?」

「勉強も将来の仕事みたいなもんだろ」

「??? そうかなぁ。勉強は勉強でしかないぞ。雪、お前は徹夜しなくても点数取れるからってずるいぞ」


 雪のグリグリと腕をつかむ。


「俺は睡眠時間を削りたくないだけ。効率悪くなるしさ。毎日の授業を噛み砕いで勉強してればテストなんて簡単だよ。先生は教えたことしかテストに出さないんだから。まれに天邪鬼な先生もいるけどな。ああいうのは腹立つけど」

「雪にも解けない問題あるんだな」

「当たり前だよ。100点なんて取ったことないから」

「何をおっしゃいますか、90点代の方が」

「……でへへへ」

「オードリーの若林か」


 雪は、後頭部をはたかれる。


「いや、俺が叩く方」

「あ、そうか。俺が春日?」

「どっちでもいいよ。芸人じゃないから」


 ふと、人が行き交う街中を歩きながら、感傷に浸り始める。


「あとどれくらい亮輔とこうやってふざけ合えるのかな。

 来年なったら違うクラスになるかもしれないだろ」

「何かあったのか。別にクラスが別々でも会えるだろ。ライン交換してるんだから」


「そうだけど……」

「本当、お前は贅沢だよ。彼女もいて、俺みたいな友達もいて

 どんだけ望むだ。ああ、言っておくけど、

 俺は女が好きだからな」

「わかってるけど、なんか突然そんなふうに考えちゃっただけだ」

「……今日って俺を励ます会じゃないの? お前の励ます会になりそうだよ?」

「……どっちでもいいっしょ。もう。それは」

「落ち込むな。大人だったら、酒飲むぞーなんだろうけどまだ高校生だもんな。炭酸ジュースで乾杯だな」

「ああ。そうだな」


 2人は、いつも行くカラオケのお店に向かった。フリータイムのソフトドリンク飲み放題で喉が枯れるほど歌いまくった。 何を歌ったかなんて覚えていない。飲み物もドリンバーでカルピスとコーラとオレンジとメロンとあらゆるジュースを入れまくってまずいと言いながら飲むという高校生らしからぬ行為をしていた。そんな小さなやんちゃをしてリフレッシュになった。2人にとっては忘れられない思い出となった。



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