亮輔が声をかけると雑誌を読んでいた雪がびくんと体を震わせた。
「うわ、びっくりする。」
「いや、こっちのセリフだわ。何、人の部屋に入ってるんだよ。しかも、俺の雑誌読んでるし」
ベッドから立ち上がって、雪から雑誌を取り上げる。
「あー。その袋とじ開けたかったのに……」
「開けるな。俺が開けるんだよ」
亮輔は勉強机のペンたてからはさみを取り出して、ラグマットの上にあるテーブルに雑誌を置いた。刃先を使って、雑誌中央にある袋とじを丁寧に開け始めた。今、流行りのモデル矢本舞香のヌード写真が載っている。袋とじは一体何か気になった。雪と亮輔が一緒になってみようとする。亮輔の腕からのぞいて、雑誌を凝視する。
よく見たら、なぜか高級舞茸の写真が大きく写っている。袋とじにしておいて、がっかりする内容だ。
「はぁ?!なんだよ、この雑誌。お金払っておいて、高級舞茸だ。ふざけるなだよな」
「待って、モデルの名前。舞香だからじゃね?」
「そういう理屈?嘘だろ」
「舞香のスポンサーが舞茸の会社?」
がっくりとうなだれる亮輔に雪は爆笑する。
「最高だな。まじで。亮輔。よく見て雑誌買えよ」
「これ、俺、買ったやつじゃないって。従兄にもらったやつ。
何か変だなって思ったんだよ。袋とじずっと切ってないなぁって。知ってたのかもしんねぇなぁ」
「かもな」
続けて、雪がまた爆笑する。
「そんなに楽しいか」
「あー、めっちゃ楽しいわ」
「だってよ、袋とじって期待するだろ。普通さ」
「……なんだ、思ったより元気そうじゃん」
雪は冷静になり、亮輔がいつも通りだったことに安心した。テーブルにあった炭酸ジュースを飲んだ。
「……元気じゃねぇよ。通いしてハンパなかったんだから」
「へ? まぁ、勉強嫌いの亮輔が塾はストレスだろうよ。なんで、そんな急に塾ってことになったんだ?」
「うちの母親が高校卒業の就職は生きていくのに大変だから
しっかり勉強して大学行けってしつこくて……。んで、最近塾で受けた判定模試の結果がさぁ」
頷きながら、雪は真剣に聞く。亮輔は身振り手振りで説明する。
「良くなかった?」
「そう、C判定」
「どこの希望大学にしたんだよ。」
「東京のW大学」
「いきなりレベル高いよな」
「だろ。当たり前なんだけどT大学はE判定な」
「それは聞かなくても分かる。まじか。それで落ち込んで
学校来れなかったってこと?」
亮輔はベッドの上の枕をハグして、話し続ける。雪は、あぐらをかいて頷いた。
「それだけではないんだけどさぁ」
「あと、何があるのよ」
「雪が遠い存在に感じてた……」
「は?」
「別に話しかけてくればいいだろ」
「勉強に忙しかったから話しかける余裕もなかった。桜ちゃんと一緒に帰るとか話聞こえてくると邪魔しちゃいかんなとか思うし」
「聞こえてたのか?」
「丸聞こえだわ」
「……勉強しないといけないからさ」
「覇気がないなぁ。俺が勉強教えるか?」
「雪に教えられるほど落ちぶれてないわい!」
「いや、C判定なんだろ?」
「まぁ、そうだけど」
亮輔はため息をついて落ち込んだ。雪は、ポンと拳をたたいてひらめいた。
「息抜き行こうぜ。カラオケ行こう。今、スランプなときなんだよ。リフレッシュしてさ」
「え、今日、ズル休みだろ」
「誰も見てないって。お母さんには、病院行ってくるとでも
行っておこう」
「ばれるだろ、それ」
「嘘も方便ってあるだろ」
「えー,まじで言ってんの?」
「良いから」
雪はぐいぐいと亮輔の腕を引っ張った。もうどうにもなれと思った亮輔は洋服タンスから私服を取り出して、着替えた。
雪も制服のままじゃまずいと亮輔の服を借りて、外出することにした。うまい具合に母親に誤魔化して、家を出た。いけないことをしているみたいでドキドキがとまらない。亮輔にとって学校休んで出かけるのは初めてだった。