庭にかわいい小人が並べられていて童話の中に入り込んだようだった。うさぎの置物もあった。ここは、亮輔の家だ。雪の家から徒歩20分で着く。
一度行った学校からガラガラの車両に乗って、家に帰るようにゆっくりと歩いて、到着した。まだ午前中にここを歩くのは、何だかソワソワした。近所付き合いはそこまでない。
別にどこの誰かなど話しかけられるわけじゃない。散歩している人も全然知らない人のため、高校生だからと言ってどうしたのなんて聞かれない。でも、なんとなく、悪いことをしているみたいで緊張する。雪はそんな思いをしながら、亮輔の家のインターフォンを鳴らした。
「はーい」
中から甲高い声が聞こえてきた。亮輔の母だ。
「あれ、雪くん。お久しぶりね。ずいぶん見ないうちに男らしくなったわね」
中学の時に親子共々お世話になっていた。過去の雪を知ってる人だ。
「お久しぶりです。亮輔は、どうかなと思ってお見舞いに
来てみました。風邪ではないんですよね」
「あら、話聞いてたかしら。そうなの。風邪じゃないのよ。
私が何度言っても聞かなくて……学校行きたくないんだってさ」
「そうですか。話聞いても大丈夫です?」
雪は、亮輔の部屋である2階を指差した。亮輔の母は、願ったり叶ったりのような表情をしてすぐに雪を中に誘導した。
「雪くんがいてくれて助かるわ。亮輔は話する時、いつも雪がっていう話題になるから。ほら、中学の時からあの子、ずっと雪くんのこと心配してたじゃない。喜ぶわ」
「本当ですか。あの時は本当に助かりました。亮輔には感謝してます」
「仲良くてよかったわよ、本当」
亮輔の母は、雪を部屋の前まで案内するとそそくさといなくなった。1人ぽつんと部屋の前に立つ。コンコンとノックするが、返答がない。いるのだろうかと疑ってしまう。部屋に鍵はない。そっと静かに部屋のドアを開けた。静かな整えられた亮輔の部屋はカーテンも開けずに真っ暗だった。ベッドの上の布団がポコんと膨らんでいる。顔は見えない。勉強机には昨日の宿題であろうノートと教科書がやり残したままだった。雪は持っていたバックを床に置いて、ベッドの下をがさこそ覗いた。亮輔のことは一旦忘れようとした。
「おい!」
いつの間にかあぐらをかいてベッドにしまっておいた大事な亮輔の雑誌を広げ1人で楽しんでいる雪がいた。亮輔ががさこそと音がするのに気づいてふとんを避けたら、テーブルの上に炭酸ジュースが入ったコップとポテチが置かれていた。