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第51話 そっと触れる

桜が泣いているのをぎゅっと抱きしめた雪は、両手指でそっと桜の涙を拭った。優しくそっと触れて、桜は嬉しくて、目をまたつぶった。


ふと小鳥が飛んできたようにちょんっと唇に何かが触れた。

目を開けると何もしてないよというような素知らぬ顔の雪がいた。


「???」


おかしいなと不思議に思う。さっきまで泣いていたのが嘘のよう。また目をつぶると、雪の顔が近づいた気配がした。


鬼ごっこするようにガチっと雪の体を捕まえた。確実に雪が桜の唇を奪っていた。目を大きくして、びっくりする桜。


「ちょ、ちょっと!!」


何も言わせないよというふうに言うように何度も唇を重ねた。

桜は何も言えなくなる。もう何かを言うのを諦めて、ずっと目をつぶって、雪に任せた。お好きにどうぞと言わんばかりの表情だ。


「……ちょっとそれは嫌だなあ」

「え???」


その見開いた瞬間にまた雪はキスをした。今度は両肩をしっかりとおさえて上唇をアムっと唇で挟んだ。っと思えば、洗濯バサミのようにパクッと上下の唇をはさむ。熱を帯びて、夢中になって唇を重ねた。桜はそれだけでくたぁーと立っていられなくなった。力が抜けた。頬も耳も真っ赤になる。


「もう、無理」

「え?! まだ何も始まってないし!!」

「えーー?? これ以上、どうしようっていうのよ」

「……え、焼いて蒸してお空の雲に」

「ん?どういうこと?」

「気持ちがね、最高潮ってことだよ」

「うーん」


 雪は,桜の腰に手をまわして、お腹あたりに手を触れた。1階の玄関ドアが開く音が響いた。誰かが帰ってきた。雪は、ヒヤヒヤして、部屋のドアから階段下をそっと覗いた。


(なに?! これからが良いところなのに誰だよ、帰ってきたのは?!)



「ただいまぁ〜」


 妹の亜弥だった。雪はイライラが増す。タイミング悪すぎると怒りをあらわにする。桜は、なぜかほっとする。これから何をされるのか想像ができなかったためだ。


「桜、妹の亜弥帰ってきたみたいだ。続きは別な時でいい?」

「つ、続きってなによ」

「えーー、わかるでしょう〜」

「な、何のことでしょうか」


恥ずかしそうに答える桜。


「……まぁ、いいや。そろそろ暗くなってきたから

駅まで送るよ。恥ずかしいっしょ。妹と一緒にいるの」

「べ,別に。私は平気だけど」

「……へぇ、そうなんだ。度胸あるっていうか、肝据わっているっていうか。んじゃ、やる?」

「だから!! 何を?」

「……もうノリ悪いなぁ。まぁ、いいや。そろそろ行こう。俺が持たないから。妹の前で桜と一緒にいるの」


 桜はよくわからないまま、雪の部屋を後にした。最後になんでお腹をそっと触られたのか気になった。桜は、腹筋で鍛えた方がいいのかなと考えていた。カラスが電線の上でカァカァと鳴いていた。真っ暗になった住宅地前の道路に懐中電灯をあてて、2人並んで歩いた。


何も話さなくてもこの時間が止まってほしいと願ってしまう。


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