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第48話 恋バナ

風が吹き荒れる。校庭の砂が飛ばされて、体にあたり、地味に痛い。黄砂が飛ぶというけれど、本当に中国のものなのかとか

調べないとわからないものだ。


今日の部活では、均等に並べたハードルを飛んだ。ハードルは倒しても走り続けろというが、足がひっかかったら転ぶのは足元が見えてないってことか、足を上げる感覚が鈍ったということか。


雪は、走り終えたあと、息を荒くして、膝に手を置いた。

短距離走の50mを何度も走ったあとだ。それは疲れてくるだろう。後ろを振り返ると、見事に全部ハードルを倒していた。


「漆島くん! 倒しても大丈夫だから次々数こなしてね」


 副部長の杉崎知子がタイムを測ってくれていた。


「あ、はい。ありがとうございます」


 雪はタイムなど聞きもせず、繰り返し、ハードルを超えて100mを走った。足が上がらないのか何度もハードルを倒してしまうことに悔しがった。


 知子が笛を鳴らす。


「集合!!」


「「「はい!!」」」


部員たちは知子を中心に弧を描くように並んだ。タオルで汗を拭く部員が多かった。


「今日はここまでにしましょう。大会はしばらくないのですが、また明日も各自練習に打ち込むようにお疲れ様でした!」


「「「お疲れ様でした」」」


 お辞儀をして、挨拶をした。


「副部長、今日は部長お休みなんですね」


「あ、漆島くん。うん、そうなのよ。あいつ風邪引いてね。

 部長なのに体弱くてさ。ごめんね」


「あーそうなんですか。大変ですね。副部長と部長って仲良いですよね」

「……え?! そう見える?」


 ハードルを片づけながら、2人は話す。知子はドキマギした。


「え、まぁ、この間、帰りに仲良く話してるの

 見かけちゃって……」


 階段を登った先の昇降口で雪と桜が落ち合っている時、遠藤部長と知子副部長が仲睦まじい様子を目撃されていたようだ。


「あ、もしかして、あの時かな。なんだ、見られていたのね。

 ちょっと、待って、漆島くんも女の子と一緒にいたよね。

 あの子って……」


「うわ、墓穴掘りました? 言わなきゃよかったかな」

「ちょっと待ってよ、聞いておいて自分の話しないのは無しでしょうよ」

「……あー言っちゃったな」

「うん、聞いちゃおかな。教えてよ。私もいうから」

「え、それは聞きたい。そしたら、副部長からお願いします」

「……仕方ないわね」


 副部長は小声で雪に部長と交際中であることを教えた。かなりびっくりした雪は大きな声を出しそうになったが、口をおさえて必死でとめた。息ができなくなりそうだった。深呼吸して整えた。


「気づきませんでしたよ。そうだったんですね。隠すのうまいですね」

「そ? それは良かった。なるべく、みんなが帰宅した後に

 話すからね。漆島くんに見られていたとはちょっと不覚だったわ。次は漆島くんの番よ。教えて」

「あー、言わなきゃいけないんですね。まぁ、双子の姉の方と

 付き合ってるっていう情報だけでいいですか?」

「え? そうなの? てか、何か含みある話じゃない?」

「では乞うご期待」

「え、待って、続くの?」

「っていうのは嘘ですが……先輩、この際、聞くんですけど

 付き合ってる時って友達との関係ってどうしてるんですか?」


 2人は、部室の荷物置き場にハードルを並べ終えて、立ち止まる。神妙な面持ちで話し出す。


「え、なになに。どうした? ずいぶん話すね。友達って私でいうと女友達のことかな?」


 真剣な目でこくこくこくと黙って頷いた。雪は桜と付き合って、亮輔との関係が疎遠になるのを悩んでいた。


「そうだなぁ。どうしてるって言われても、私らクラス違うし、会うって言っても部活終わりとか休みの日にしか会わないしね。まぁ、唯一、続けているのは毎日必ずスタンプはやってたよ。女友達とは、学校内なら普通に話して絡むけど……。なんかあった?」

「え、部長と毎日スタンプ? 先輩、めっちゃかわいいですね」

「あ、ちょっと待って。そこまで聞いてなかったね。今のは忘れて……」

「いや、覚えておきます。」

「漆島くん!!」

「すいません、聞いておいて解決してないんですけど、待ち合わせしてるので別の機会にもう一度聞いてもいいですか?」

「……え、まぁ、良いけどさぁ」

「ありがとうございます」


 雪は、昇降口で待つ桜の方に手を振って、階段を駆け上がっていった。ポツンと取り残された知子は若干寂しさを増した。

 2人が羨ましいとさえ思った。


「なんであいつは、風邪なんか引くんだよぉ」


 知子は、地面の砂を蹴った。風が吹いて、顔にあたる。バチが当たったのかもしれない。カラスが電柱の上から眺めてカァと鳴いていた。

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