風が吹き荒れる。校庭の砂が飛ばされて、体にあたり、地味に痛い。黄砂が飛ぶというけれど、本当に中国のものなのかとか
調べないとわからないものだ。
今日の部活では、均等に並べたハードルを飛んだ。ハードルは倒しても走り続けろというが、足がひっかかったら転ぶのは足元が見えてないってことか、足を上げる感覚が鈍ったということか。
雪は、走り終えたあと、息を荒くして、膝に手を置いた。
短距離走の50mを何度も走ったあとだ。それは疲れてくるだろう。後ろを振り返ると、見事に全部ハードルを倒していた。
「漆島くん! 倒しても大丈夫だから次々数こなしてね」
副部長の杉崎知子がタイムを測ってくれていた。
「あ、はい。ありがとうございます」
雪はタイムなど聞きもせず、繰り返し、ハードルを超えて100mを走った。足が上がらないのか何度もハードルを倒してしまうことに悔しがった。
知子が笛を鳴らす。
「集合!!」
「「「はい!!」」」
部員たちは知子を中心に弧を描くように並んだ。タオルで汗を拭く部員が多かった。
「今日はここまでにしましょう。大会はしばらくないのですが、また明日も各自練習に打ち込むようにお疲れ様でした!」
「「「お疲れ様でした」」」
お辞儀をして、挨拶をした。
「副部長、今日は部長お休みなんですね」
「あ、漆島くん。うん、そうなのよ。あいつ風邪引いてね。
部長なのに体弱くてさ。ごめんね」
「あーそうなんですか。大変ですね。副部長と部長って仲良いですよね」
「……え?! そう見える?」
ハードルを片づけながら、2人は話す。知子はドキマギした。
「え、まぁ、この間、帰りに仲良く話してるの
見かけちゃって……」
階段を登った先の昇降口で雪と桜が落ち合っている時、遠藤部長と知子副部長が仲睦まじい様子を目撃されていたようだ。
「あ、もしかして、あの時かな。なんだ、見られていたのね。
ちょっと、待って、漆島くんも女の子と一緒にいたよね。
あの子って……」
「うわ、墓穴掘りました? 言わなきゃよかったかな」
「ちょっと待ってよ、聞いておいて自分の話しないのは無しでしょうよ」
「……あー言っちゃったな」
「うん、聞いちゃおかな。教えてよ。私もいうから」
「え、それは聞きたい。そしたら、副部長からお願いします」
「……仕方ないわね」
副部長は小声で雪に部長と交際中であることを教えた。かなりびっくりした雪は大きな声を出しそうになったが、口をおさえて必死でとめた。息ができなくなりそうだった。深呼吸して整えた。
「気づきませんでしたよ。そうだったんですね。隠すのうまいですね」
「そ? それは良かった。なるべく、みんなが帰宅した後に
話すからね。漆島くんに見られていたとはちょっと不覚だったわ。次は漆島くんの番よ。教えて」
「あー、言わなきゃいけないんですね。まぁ、双子の姉の方と
付き合ってるっていう情報だけでいいですか?」
「え? そうなの? てか、何か含みある話じゃない?」
「では乞うご期待」
「え、待って、続くの?」
「っていうのは嘘ですが……先輩、この際、聞くんですけど
付き合ってる時って友達との関係ってどうしてるんですか?」
2人は、部室の荷物置き場にハードルを並べ終えて、立ち止まる。神妙な面持ちで話し出す。
「え、なになに。どうした? ずいぶん話すね。友達って私でいうと女友達のことかな?」
真剣な目でこくこくこくと黙って頷いた。雪は桜と付き合って、亮輔との関係が疎遠になるのを悩んでいた。
「そうだなぁ。どうしてるって言われても、私らクラス違うし、会うって言っても部活終わりとか休みの日にしか会わないしね。まぁ、唯一、続けているのは毎日必ずスタンプはやってたよ。女友達とは、学校内なら普通に話して絡むけど……。なんかあった?」
「え、部長と毎日スタンプ? 先輩、めっちゃかわいいですね」
「あ、ちょっと待って。そこまで聞いてなかったね。今のは忘れて……」
「いや、覚えておきます。」
「漆島くん!!」
「すいません、聞いておいて解決してないんですけど、待ち合わせしてるので別の機会にもう一度聞いてもいいですか?」
「……え、まぁ、良いけどさぁ」
「ありがとうございます」
雪は、昇降口で待つ桜の方に手を振って、階段を駆け上がっていった。ポツンと取り残された知子は若干寂しさを増した。
2人が羨ましいとさえ思った。
「なんであいつは、風邪なんか引くんだよぉ」
知子は、地面の砂を蹴った。風が吹いて、顔にあたる。バチが当たったのかもしれない。カラスが電柱の上から眺めてカァと鳴いていた。