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第33話 交差する感情 雪の選択

 亮輔は、ある休み時間に菊地とすれ違った。横に近寄り、右腕を伸ばして進路を塞いだ。


「あのさ、聞きたいんだけど」

「は? なに」

「雪、最近、調子悪いみたいだけど、なんか知ってる?」

「ハハハ、そうなの? そんなの知ったこっちゃないんだけど」

  笑いながら、教室に入ろうとする。腕を引っ張って、廊下に誘導する。


「待て待て。もっと聞きたいことがあるんだよ」

「え、俺は何もないよ」

「俺が質問ね。俺が聞きたいのは、今、菊地に付き合ってるやつがいるかってこと」

 あまりいい顔をしない菊地に亮輔は、何となく察した。


「……いないけど」

「そっか。そういうことか」

「誰か紹介してくれんの?」

「おー、んじゃ、合コンしますか?」

「マジで? んじゃ女の子3人男、俺とお前ともう1人ね」

「えー、俺も出るの?」

「当たり前だ言い出しっぺだから。何か決まったら教えて」


 亮輔は良い機会だと思った。菊地が新しい彼女できれば、桜に近づかないだろうと思っていた。その様子を教室の席から見ていた雪は、仲良さそうな亮輔と菊地に嫉妬した。もう、俺はあそこに必要ないだろう。亮輔も離れていくなと勝手に考えていた。ネガティブなゾーンに入ってしまったようだ。桜は、別れようという言葉にショックでずっと立ち直れずにいた。お互いにまだ好き合っていたと思っていた。今度一緒にどこに行こうかと決めていたところで、それができないと思うと残念だった。雪とまっすぐ目を合わせられなくなっている。

 放課後のラウンジ。いつもなら、仲良く自販機で好きなものを買っていた。どれにするか決めるのが楽しかった。雪は1人、小銭を財布から取り出して、緑茶のペットボトルのボタンをした。ガコンとペットボトルが落ちた。

 ゆっくりキャップを開けて、一口飲んで、バックに入れた。飲みたいと思って買ったお茶は飲んでみたら、あんまり飲みたくなかった。飲んでみないとその時の気持ちはわからない。今は、複雑な気持ちでいっぱいだ。靴箱に上靴を入れて、外靴をすのこの近くに置いた。靴紐が取れかかっている。

足を入れて、結び直した。


 昇降口を出て、校門に向かうと、部活終わりの瑞希が、駐輪場にいた。


「あれ、漆島くん。今帰り?」

 いっそのこと、菊地と関わりが少ない瑞希と付き合った方が気持ち落ち着くのかなとよからぬことを考えた。性格はちょっと違うが、顔は本当に瓜二つ。周りから見たら、桜と瑞希とどっちと付き合ってるってわからないほどだ。


「瑞希、自転車に乗るの?」

「あー、そう。暗いから歩かないで良いように自転車、ここの駐輪場に置いてたの。駅まで徒歩30分はかかるでしょう」

「そうだな」

「漆島くん。一緒に帰ろうよ」

「自転車押して行ったら、歩いていくのと一緒だろ。俺、前乗るから後ろ乗ってよ」


 瑞希とは自然に話せる。菊地に何も言われなかったら桜とだって自然に話せたはずなのに。


「え? 2人乗りするの? やった。でも先生に見つかったら怒られるよ」

「いいから。いくよ」


 雪はなぜか積極的だった。腰にぐるりと手をあてて、瑞希の体が雪に密着した。触れてはいけないものが背中にあたってる気がするが、気にしないようにした。これが本当なら桜だったらよかったのにと内心思っていた。顔が同じならいいかとどこか浅はかな考え方になっていた。歩行者信号機の音が耳いっぱいに響いた。


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