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第26話 密やかな心模様―三角関係の旋律

 桜は瑞希にバレないように静かに玄関のドアを開けた。洗面所に直行して、手を洗いに行く。リビングのドアをそっと開けると、ソファの上でテレビを見ながら、スナック菓子を食べている瑞希がいた。


「あら、桜、帰ってたの? 静かだからいつ来たのかと思ったわ」


 母がエプロン姿で声をかけた。


「え? 姉ちゃん、いたの?」

「いたのって……。いたよぉ。帰ってきてたよ」


 何だか、そわそわした。心を見透かされているようでそっぽを向いた。


「ん? なんかあった?」

「べ、別にぃ。お母さん、今日の夕飯なに?」

「今日は、カレーライスだよ」

「やった」


 桜は、ふとバックの中でスマホのバイブレーションがなるのが、聞こえた。


「何か、鳴ってるよ?」


 瑞希が言う。


「あ、うん。電話だ」


 桜は、スマホを取り出して、2階の部屋に駆け上って行った。


「……」

「瑞希、夕飯前にお菓子食べすぎよ! ご飯食べられなくなるでしょう」

「お腹空いてるの。大丈夫、カレーライスなら

 たくさん食べるよ」

「ならいいけど……」


 ***


「はい、もしもし」

『電話してごめん』

「ううん。大丈夫、どうかした?」


 電話の相手はさっき駅前で別れた雪だった。


『言うの忘れたことがあってさ。桜、明日の土曜日何か予定ある?』

「え、えっと、午前中だけ部活で、午後は何も予定ないよ?

 何かあった?」

『カラオケ、この間、行けなかったって言ってたでしょう。

 一緒行こう。行くメンバーなんだけど、本当は亮輔誘いたいたけど、今度にするわ。今回は、2人だけでもいい?』

「え、うん。いいけど。2人って、私と雪の2人だけ?」

『うん。そう。問題あった?』

「は、恥ずかしいけどいいよ。」

『まぁ、初めてだもんね。一緒に行くの。気楽にね』

 桜は、カラオケのことを話すだけでもドキドキしていた。まだ当日ではないのに。


『んじゃ。明日は午後2時に駅前で。』

「わかった。んじゃまた」


 通話終了のボタンを押した。電話を終えると、部屋のドアの近くに瑞希がこちらをのぞいていた。


「わぁ?! 瑞希、何してるの?」

「桜、何してたの? 誰と電話?」

「え? えっと…川島光子ちゃんだよ。みっちゃんと電話」

「えー、中学の同級生と電話?なんで、今更。そういや、桜、同じクラスに女子の友達いるの?」

「い、いるよぉ。友達くらい」

(ライン交換はできてないけど)

「へー、何か嘘ついてない? 目が泳いでる」

「今、目が痒いから。花粉症だし」

「いつまで花粉症? もう5月だよ」

「5月でも飛ぶんだよ。ほら、赤いでしょう」

「それ、ものもらいじゃないの?」

「……もうしつこい。放っておいて」


 桜は、瑞希を振り切って、下のリビングに駆け降りた。 瑞希は、下唇を噛んで面白くない顔をした。本当は、電話している最中に相手の声が聞こえていたことを黙っていた。当日の行動を監視しようと心に決める瑞希だった。


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