桜は瑞希にバレないように静かに玄関のドアを開けた。洗面所に直行して、手を洗いに行く。リビングのドアをそっと開けると、ソファの上でテレビを見ながら、スナック菓子を食べている瑞希がいた。
「あら、桜、帰ってたの? 静かだからいつ来たのかと思ったわ」
母がエプロン姿で声をかけた。
「え? 姉ちゃん、いたの?」
「いたのって……。いたよぉ。帰ってきてたよ」
何だか、そわそわした。心を見透かされているようでそっぽを向いた。
「ん? なんかあった?」
「べ、別にぃ。お母さん、今日の夕飯なに?」
「今日は、カレーライスだよ」
「やった」
桜は、ふとバックの中でスマホのバイブレーションがなるのが、聞こえた。
「何か、鳴ってるよ?」
瑞希が言う。
「あ、うん。電話だ」
桜は、スマホを取り出して、2階の部屋に駆け上って行った。
「……」
「瑞希、夕飯前にお菓子食べすぎよ! ご飯食べられなくなるでしょう」
「お腹空いてるの。大丈夫、カレーライスなら
たくさん食べるよ」
「ならいいけど……」
***
「はい、もしもし」
『電話してごめん』
「ううん。大丈夫、どうかした?」
電話の相手はさっき駅前で別れた雪だった。
『言うの忘れたことがあってさ。桜、明日の土曜日何か予定ある?』
「え、えっと、午前中だけ部活で、午後は何も予定ないよ?
何かあった?」
『カラオケ、この間、行けなかったって言ってたでしょう。
一緒行こう。行くメンバーなんだけど、本当は亮輔誘いたいたけど、今度にするわ。今回は、2人だけでもいい?』
「え、うん。いいけど。2人って、私と雪の2人だけ?」
『うん。そう。問題あった?』
「は、恥ずかしいけどいいよ。」
『まぁ、初めてだもんね。一緒に行くの。気楽にね』
桜は、カラオケのことを話すだけでもドキドキしていた。まだ当日ではないのに。
『んじゃ。明日は午後2時に駅前で。』
「わかった。んじゃまた」
通話終了のボタンを押した。電話を終えると、部屋のドアの近くに瑞希がこちらをのぞいていた。
「わぁ?! 瑞希、何してるの?」
「桜、何してたの? 誰と電話?」
「え? えっと…川島光子ちゃんだよ。みっちゃんと電話」
「えー、中学の同級生と電話?なんで、今更。そういや、桜、同じクラスに女子の友達いるの?」
「い、いるよぉ。友達くらい」
(ライン交換はできてないけど)
「へー、何か嘘ついてない? 目が泳いでる」
「今、目が痒いから。花粉症だし」
「いつまで花粉症? もう5月だよ」
「5月でも飛ぶんだよ。ほら、赤いでしょう」
「それ、ものもらいじゃないの?」
「……もうしつこい。放っておいて」
桜は、瑞希を振り切って、下のリビングに駆け降りた。 瑞希は、下唇を噛んで面白くない顔をした。本当は、電話している最中に相手の声が聞こえていたことを黙っていた。当日の行動を監視しようと心に決める瑞希だった。