校舎屋上のカザミドリが激しく揺れていた。強風警報が天気予報で発表されていた。英語の授業中、窓が揺れるくらいガタガタと風が吹きすさぶ。リスニングの小テストも聞きにくいくらいだった。授業終了のチャイムがなると、数分も経たないうちに瑞希が雪の席にやってくるようになった。休み時間があれば毎回遊び来ていた。何をどうするわけじゃない。どうってことない話をしに来ていた。もう、それはクラスメイト公認で
交際しているんだろうと噂になるくらいだ。雪は瑞希が毎回来るのを金魚のフンだなとあまり良い気分がしなかった。その2人を見ないように伏せながら、落ち込んでいたのは廊下側に座る桜だった。隣の席の菊地も後ろの席の亮輔も、桜の態度を見て分かりやすいなと感じていた。
「綾瀬、下、消しゴム落ちてるぞ」
亮輔が少し気を落としてる桜に声をかけた。転がった消しゴムを指差した。
「あ、ごめんね、ありがとう」
「桜ちゃん、元気ないね」
隣の菊地が聞く。
「え、そう? そんなことないよ」
「無理は体に毒だよ」
菊地は目の下にクマができてるのが見えた。ジェスチャーで伝える。愛想笑いでごまかした。昼休みになって、桜はトイレに行った後、ハンカチで手を拭いていた。すると、教室から雪が出てきて、桜の手を引いていく。
「ちょっと一緒に来て」
「え、待って.教室にお弁当」
「いいから。俺のあげるし」
朝、コンビニで買っていたパンを大量に入ってるビニール袋を桜に見せた。屋上に続く階段を一緒に上った。ドアを開けた瞬間、風が頬に強く打った。
「うわ、風強いね」
カタカタと激しくカザミドリが回っているのが見えた。ふわっとめくれるスカートをおさえた。
「階段の踊り場にしようか」
「うん、そうだね。雨降ってないけど、飛ばされるもんね」
2人は屋上の開けたドアを閉めた。
「ごめんね、突然連れてきて」
「ちょっとびっくりしたよ」
「瑞希から逃げたくてさ」
「逃げる?なんで逃げるの? 付き合ってるんでしょう?」
「……それはちょっと誤解があってさ」
雪は階段を椅子代わりに座って、ビニール袋からパンを取り出した。クリームパンを桜に渡す。
「ありがとう。いただきます」
雪はカレーパンを取り出した。
「俺、瑞希と付き合ってないよ?」
「え、でも待って。瑞希、毎回の休み時間、教室移動して来るでしょ? クラスメイトたちは交際してる認定みたいな噂たってるよ?」
「マジで? 本当、困るんだよなー。変な噂立つのは」
桜は疑問符を浮かべながら、パクッと小さな口でクリームパンを頬張った。
「俺、瑞希じゃなくて、桜が好きなんだよ」
一瞬、時が止まったように2人の動きが止まった。思わず頬張ったクリームパンのクリームがデロンデロンになった。
「あ、あ……。あの、えっと、ティッシュどこだったかな」
慌ててポケットからティッシュを取り出した。
「大丈夫?」
「え、もう、全然大丈夫じゃないよ。なんか、何言われたか
覚えてなくて……。クリームが」
桜の右頬にプチッとついたカスタードクリームが気になった雪はそっと指で拭った。すぐにぺろっとなめた。
「あ、ごめん。ありがとう」
「ううん。気にしないで」
沈黙がしばらく続く。
「あのさ」
「うん」
「俺、顔で選んでないから桜のこと」
「そ、そうなんだ」
照れて顔が赤くなり、それ以上何も言えなくなった。双子で瑞希と同じ顔。自分を選んでくれたことが嬉しすぎた。顔を見合わせた。そっと鼻と鼻を近づけて、頬にそっと口づけた。
それだけで背中に天使の羽が生えたようだった。
言葉無くても、雰囲気や仕草で意思疎通が通じてる気がした。
笑顔溢れた。