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第21話 微妙な距離感

授業終了のチャイムが鳴り響いた。


学校の教室内、最近、雪の周りでは状況が変わり始めた。

いつも休み時間になると、瑞希が雪の前に遊びに来るようになった。出入り口付近で桜に声をかけたかと思うとすぐに雪の前に立つ。なんでもない話で盛り上がっていた。その様子をクラスメイトはもちろん桜も亮輔もしっかりと見ていた。

授業の始まりのチャイムが鳴ると、慌てて瑞希は隣のクラスに戻っていく。桜は、机の上に教科書とノートを準備して

素知らぬ顔していた。瑞希は素通りだった。


「妹ちゃん、最近、休み時間によく来るようになったね」


 隣の席の菊地雄哉が桜に声をかけた。


「そうだね」

「ねぇねぇ、あの2人って付き合ってるの?」

「え?」

「だから、漆島と瑞希ちゃん。知ってる?」

「……さぁ?」


 桜も2人の関係はよく知らない。瑞希も話したくないのか教えてくれない。雪と桜はカラオケ以来微妙な距離感を保っていた。それと比べて、瑞希と雪は、さらに近しい関係になっているのではないかと桜は感じた。桜だけではなく、他のクラスメイトも感じるほどだ。その関係を見始めてから、桜は雪と連絡するのをやめていた。邪魔してしまうのか。迷惑と感じるか。

放課後の教室。風がカーテンを揺らす。日直だった桜は、窓を閉めようと廊下側の席から窓ぎわに移動する。雪は、バックの中にガサこそと教科書を詰めていた。クラスメイトたちは次々と部活動に移動していた。教室内は、桜と雪の2人だけになった。


「……日直?」

「うん。そう」


 黒板を綺麗に掃除を始める桜を見て、雪は手伝った。


「貸して。高いところ届かないだろ?」

「あ、ごめん。ありがとう。」


 何となく、ぎこちない。久しぶりに会話するからだろうか。あれから1週間くらい経っている。桜が送ったラインは既読のままだった。


「あのさ、ごめんな。ライン、ずっと返事かえしてなかった」

「ううん。大丈夫。忙しかったのかなって思ってたから」

「……忙しい…くはなかったけどね」

「そうなの?」

「そう。寝てたかな。最近、疲れやすくて…。気疲れかな」


 何となく、察した桜は、静かに頷いて


「もしかして、瑞希のこと?」

「……瑞希? 違うよ。全然、気使わないさ」

「そっか」

「菊地。中学の一緒のやつなんだけどさ。俺の天敵」

「菊地くん?」

「そう、いろいろあってね。俺、強くならないとって……」


 握り拳を作った。


「ん?菊地くんと喧嘩でもするの?」

「喧嘩じゃないけど、あー喧嘩みたいなのかな。相性よくないみたいでさ。いや、男子が好みなわけじゃないけどさ」

「ふふふ……。わかってるよ」

「ああ、そう。わかってくれた?」


 しばし沈黙が続く。


「あ、ほら、今度カラオケ行こうよって言ってたでしょう。 

 都合いい時、日曜日とか行かない?」

「あ、うん。そうだね。いいよ、場所とか教えてもらえば、

 行くから。え、それって何人で行くの?」

「……うーん、亮輔と俺と……。桜?」


 指さされてしかも呼び捨てされていることに頬を赤らめた。


「あ、ごめん。指さしちゃだめだよね。手のひらでお姫さまみたいにしないとだね」

「気にしてないよ、大丈夫。名前で呼ばれたからびっくりしただけ」

「あ、ごめん。下の名前言っちゃった。綾瀬双子だから名前で言わないと区別つかないっしょ」

「そうだよね。私も下の名前で呼んでいい?」

「あ、ああ。うん」


 雪も嬉しくなったようで、ポリポリと頬をかいた。


「……雪くん?」

「呼び捨てでいいよ」

「雪ぃやこんこん」

「なんで歌うの?」


 雪は、桜の言葉に笑いが止まらなかった。


「何か、恥ずかしくて。やっぱ、漆島くんにしようかな」

「いいよ、コンって名前でも」

「それじゃ、誰かわからないよ。雪ってちゃんと呼ぶから」

「うん。んじゃそれで」


 ちょっとした沈黙の間が笑いに変わる。桜は少しのわだかまりが消えた気がした。廊下で2人に見えないように隠れていた瑞希は下唇をかんで職員室へ向かう2人をじっと見ていた。




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