「ただいま」
桜は、玄関のドアを開けて、グレーの靴をそろえた。隣には、水色のスニーカーがあった。瑞希の靴だった。中に入るとリビングのソファに座って、瑞希は、バニラアイスを食べていた。
「あ、ずるい。私も欲しい」
「おかえり、桜。残念、チョコアイスならあるよ?」
「桜、おかえり。今日は、遅かったね」
「そうかな。普通にいつも通りの電車で帰ってきたよ。あ、イヤホン、返すの忘れてた」
桜は左耳につけたイヤホンに気づいた。雪から借りたイヤホンをすっかり返すのを忘れていた。猫のガシャポンの話が盛り上がって、夢中になっていた。最近出たガシャポンでメロンクリームソーダの上に可愛い猫がのっかった置物だった。コーラフロートやラムネソーダもあった。カラフルで可愛いねの話だった。いつの間にか、一緒の電車で雪は立ってつり革に桜は空いていた座席に座って、話しながら過ごしていた。イヤホンはお互いに好きな音楽だった。離れた瞬間に音が消えたことさえも気づかなかった。駅のホームのサイレンが大きかったせいか。心が満足していて、それどころじゃなかったのかもしれない。片方の白いワイヤレスイヤホンを手のひらの上に乗せた。
「あら、何、桜。そんな高級そうなイヤホン持ってたの?」
「ううん、これ。友達の。ゲーセンの景品で500円しないで取れたって言ってた。でも、性能いいよ」
「え?片方しかないじゃない」
桜の母は、イヤホンをじろじろと手に持ってみた。小さな貝殻みたいだった。
「片方…そう、一緒に音楽聴いてて、すっかり忘れてた。何か、アクセサリーみたいで軽いから気づかなかった。コードあればすぐわかったけど」
瑞希はアイスを食べ終えて、桜の後ろにまわる。
「ねぇ、それ。友達って、誰」
「え?」
「女子?」
桜はドキッとした。これは瑞希にバレたくないやつ。
「う、うん。そう、女子女子!」
「え、嘘だ。私、絶対漆島くんかなって思った」
さすがは双子、勘は鋭いようだ。桜は目を泳がせて、その場から立ち去った。
「え、何、それ。彼氏? 遂に桜にも彼氏ができたの? 母さん、その話詳しく聴きたいな!」
「えー、母さんは知りたがりだなぁ。あのね、桜は……」
「瑞希!!」
リビングの扉を開けようとした脇から怖い顔で瑞希を睨む桜。それ以上は話すなという顔をしている。
「……本人の許可は取れてないので、正式に彼氏になったら話しよう。ね、母さん。待っててあげて」
「瑞希は何様?!」
「私は瑞希様よ!!」
「そんなの、知ってるわ」
姉妹の喧嘩が始まった。
「2人とも、うるさいよ!」
「……ごめんなさい」
コンコンと母に注意されながら、隣同士、背中ではお互いに
つねり合いが勃発していた。双子姉妹もどこの家庭も一緒で喧嘩はするものだった。桜は、雪と帰り際、ライン交換することになった。好きな音楽が一緒と、好きなペットが猫。ガシャポン集めで猫を集めていることを聞いた桜は、興味がわいて、積極的にスマホを出した。雪は恥ずかしそうに、照れながら、スマホを差し出した。
「別にいいけど」
雪の本当は脳内ではものすごく喜んでいた。少しずつ、2人の距離は縮まりつつあった。