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第15話 双子であること

日が傾きそうな時間。雪は、買ったばかりのスニーカーを履いてハードルを飛び越えていた。トラックに並べられた5個のハードルを何度も飛び越えた。時々、つま先でひっかかる。倒れてもタイムが大事だ。今の心も少し似ていた。何かにひっかかっていても前に進まなくてはいけない時がある。立ち止まらない。時間は過ぎる。陸上部に所属していたが、雪はハードルが嫌いだ。



ウォーミングアップで使用されたりする。様々な経験が大事だと、顧問の指導だった。主に50m走を中心に走っている。ハードルがあるのとないのとではだいぶ違う。障害物を避けないといけないのだ。煩わしいさを感じる。走り終えると息が上がった。今日は汗をたくさんかいた。夏が近づいてきていたからかもしれない。ペットボトルのスポーツドリンクが美味しく感じた。グランドから昇降口から校門へ桜が帰宅するのが見えた。タオルで額の汗を拭いてからもう一度校舎側を見た。

どうしても、気になるんだろうな。無意識に目を向けてしまう。数十メートルは離れてる。こちらが見てるなんて

わかる訳ないだろうとまたタオルで汗を拭いた。視線を感じた。大きく右腕を何度も振る桜がいた。こちらの姿を見えたのか他の誰かに手を振ったのか。それらしい人はいなかった。


(俺に向かってなのか……)


他の部員にバレないように小さく手を振り返した。桜はニコニコ笑っているように思えた。何も話していない。ただ手を振っただけ。手を振っただけで繋がった気がした。まだ解決してない金城深月を思い出す。ため息をついた。隣で試合をしているサッカー部のホイッスルの音が響いた。バサバサとカラスが飛び立っていった。


◇◇◇


  ヘッドフォンでバラードの音楽を勉強机に宿題を広げて聞いていた。ペンをクルクルと回す。


「桜? クラスって慣れてきたんでしょう。好きな人っているの?」

「何よぉ、それ聞くってことは、瑞希はできたの?」


 2段ベッドで部屋を分けていた2人。お互いに顔は見えない位置で声だけ聞こえた。宿題しながら話していた。


「んー、そういう訳じゃないけど、同じクラスで名前が同じで

 漢字違うんだけど金城深月さんっているのね。友達になったんだけど、なんだっけなぁ、漆島 雪って人にアプローチ中なんだって。知ってるよね?」

「あー、漆島くん?そう、同じクラスだね。私と」

「聞いたよぉ。なんか、付き合ってるとかなんとか。本当なの?」

「え?付き合ってないよ。なんで?」

「だって、駅で一緒にいたって噂で聞いたらしいよ。

 イチャイチャしてたとか。初耳なんだけど」


 桜はため息をついて、誤解だということを説明した。


「そういうわけで、イチャイチャしていたわけじゃないよ。付き合ってないし!!」

「えー、なんだ。違うの? でもさ、桜、一緒にいて拒否らなかったんでしょ? 嫌いではないよね?」

「……わからない。どうなのかな」

「漆島くん、良いなって言う子多いらしいよ。肌が白いし、優しいもんね。ライバルは多いかも? 私は隣のクラスだから詳しく知らないけどね」


 桜は持っていたペンを机に置いた。窓を開けて外の夜空を見た。雪は、優しいのはもちろん、一緒にいてなぜか安心する存在だった。オリオン座がチカチカと光っているのが見えた。何にもしていないのにドキドキがとまらない。 明日も会えるんだろうなと楽しみになってきた。


「また、好きな人かぶらないといいね」


 瑞希は後ろから桜に声をかけた。


「え、うん。それはもちろん」

「もし一緒になったら、一緒に告白ね」

「何、それ」

「まぁまぁ、私はお風呂タイムでーす」


 双子じゃなければよかったのにと切実に願った。瓜二つで顔が似てる。好きなものも一緒のことが多い。今回もまさか一緒なのかとそわそわとした。桜にとって、眠れない長い夜になりそうだ。


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