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第12話 寄り添ってくれる人

自動販売機からガコンとペットボトルが落ちた。

雪は気分が落ち着くようにと、飲み物を買った。

富士山で採れたという貴重な天然水だった。

喉が潤う。体の中の水分が失われていたようで、

かなり欲していた。口元からこぼれるくらいだった。

深呼吸をして、ひゃっくりが出た。


「大丈夫?」


 笑みを浮かべながら雪は桜に聞く。


「う、うん。ありがとう」


 桜はどうして泣くことをなったかを雪が聞く前に話し始めた。待ち合わせをしていた佐藤佳穂は、嘘をついていた。

今回の演奏会の会場は電車移動ではなく、学校から専用のバスが手配されていた。それを言わずに一緒に行こうと個別に話をして、行かないのに嘘の待ち合わせの場所と時間を連絡はしていた。なぜそうするのかと問いだすと、佳穂は想像もしない口調で話しだす。電話口の向こうで


『桜なんて、友達なんかじゃないわ。友達のふりしてただけ。

調子乗ってるよね? 演奏が1人だけ浮いてるの気づかない? クラリネットは集団の中に溶け込まなきゃいけないのを目立ってるのよ。だから今日の演奏会は来ないでただそれだけ』


「……え」


 有無を言えずに電話は通話終了となった。佳穂は部長の立場ではない。1年で入ったばかりだ。しかも、佳穂自身は初心者だ。部活動が始まって1か月は経過していた。中学から吹奏楽部に入っていた桜は経験者で部活の流れを大体は把握していた。 佳穂は全てが初めてで、取り残されてる気分が強かった。桜とは同級生ということもあり話しやすいと思っていた。沸々と嫉妬心が芽生えて、友達ごっこを演じていた。今日こそは自分の思いを桜に伝えようと企てていた。

クラリネットも上手に吹ける先輩や同級生の部員とも仲良くて

男女問わずに交流できる桜が羨ましかった。ずるい。佳穂の中で何かが変わった。桜は信じていた佳穂がそんなことをするなんて信じられなかった。涙が落ち着かない。雪は、桜の背中を

トントントンと、慰めた。正気に戻る桜は突然、数メートル先までカニのような動きで素早く移動した。その行動に、驚く雪はくすりと笑う。


「綾瀬? 大丈夫?」

「え。あ、うん。もう、大丈夫だから。ありがとう」


 乱れた髪を手でとかし直した。泣いていたことが嘘のように

笑いが止まらなくなる。


「漆島くん、本当にありがとう」

「お、おう。これくらいお安い御用だ」


 顔見合わせて、また笑い合った。泣いていたことが嘘のようだった。 雪は誰かと待ち合わせしていたことをすっかり忘れて、そのまま桜となんでもない話をして別れを告げた。何しにあそこに行ったんだっけと頭を掻きむしる。



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