「雪〜!」
男子生徒が、昇降口でバックを高い位置で持って後ろから頭にバンっとぶつけた。
「いってー。何すんだよ」
「悪い悪い。眠気覚ましにと思ったけど想像以上に力が強かった」
「やったなぁー! そういうやつにはこうしてやるぞ!」
雪はこれでもかとバックで頭を叩いた亮輔の
両脇をくすぐった。
「やめ、やめ。俺、マジで弱いから」
笑いながら抵抗する。
「なんかいうことあるよね? 亮輔くん!」
雪はまだまだくすぐる。
「はい、はい! 申し訳ありませんでした。マジでやめて」
「分かればよろしい」
「お前は母ちゃんか?」
「え? んなわけじゃないじゃん。
ならなくちゃいけないんだよ。そもそも男なんだからお父さんだろ」
「いや、そういうことじゃないんだけどさ。言い方が母ちゃんそっくりって話だよ」
亮輔は頭をぼりぼりとかいた。がやがやと賑わう昇降口に静かに双子の姉妹は入っていく。
「なあ、あの2人。そっくりだよな。双子だって話だよ」
「へぇ、そうなんだ。顔がそっくりだと名前間違えそうだよな。 一卵性双生児かな?」
ボソボソと亮輔と雪は話していると横をすーっと2人は通り過ぎていく。シトラスの香りが鼻に触った。シャンプーの香りだろうか。セミロングのストレートな髪が靡いている。雪は初めて会った感じがしなかった。バチッと目が合ってドキッとする。姉の桜はにこと笑ってぺこりとお辞儀した。瑞希は、桜の肩をたたいて先に誘導している。
今日は入学式でクラス発表の日。新入生同士ののご対面だ。
「何、ぼーっとしてんだよ、雪。俺らがクラス一緒か死活問題だろ?」
「いやいや、亮輔と中学3年間ずっと一緒だからそろそろ腐れ縁も離れてみたいって思いはあるよ?」
「あ、そういうこと言っちゃう? クラス別になっても忘れもの貸してやんねえからな」
「え。それは困るな。んじゃ、先のは無しな」
「もう、遅いわ」
亮輔はご機嫌斜めになった。雪はクラス発表のリストに目をやった。
「忘れものはもう諦めるしかないな」
雪はつぶやいた。
「え、また同じクラスじゃんか。やったね。俺らどこまでも一緒だな」
ケタケタと亮輔は笑った。雪はクラス一覧表をじっと見つめた。
24名の1年A組は男女ちょうど半分の人数で分けられていた。 自分の名前を指差していると隣に見たことある女子がいた。 雪のことを気にもせずクラス一覧表の前に立ちはばかった。
「瑞希、私、A組だ。やっぱりバラバラだね」
さっきの双子の姉妹だった。
「でも、私B組だし、隣だから忘れもの借りにいくね」
「なるべく忘れないでほしいんだけど……」
ざわざわと同級生たちに囲まれて身動きが取れなくなってきた。ドンっと後ろにいた男子に気づかずにぶつかった。
「あ、ごめんなさい!」
背中が当たったようだ。
「あ、いや、大丈夫」
「良かった」
ぶつかった雪は、さらりと桜の髪が自分の顔に触れたことが逆に申し訳なくなったが、いつの間にかいなくなっていた。
いい香りがした。
「おーい、雪、何してんだ? 教室行くぞー」
「あ、ああ。今行く」
バックを背負い直して、雪は亮輔とともに1年A組の教室に向かった。