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第23話 記憶と重ね合わせる

「いらっしゃいませ。ご注文どうぞ」

「えっと、キャラメルマキアートのトールサイズでお願いします」

「はい、キャラメルマキアートトールサイズですね。ホットでよろしいでしょうか?」

「はい、ホットで」

 茉大は、手際よく注文を承っていた。横で見ていた澄矢は、メモを取りながら、やり方を教わっていた。

「お支払いはいかがいたしますか?」

「ペイでお願いします」

「かしこまりました。それでは、QRコードを端末にかざしてくださいね」

「はーい」


 シャリーンと音が鳴り、支払いが終了した。レジ画面には、注文したメニューと金額、支払い方法など表示されていた。茉大は、笑顔でてきぱきこなす。レシートをお客さんに渡して会計は終わった。


「「ありがとうございました」」


 挨拶だけは一緒に同時に行った。


「澄矢くん、わからないことがあったら、すぐ言ってね。教えるのが大変になるから」

「はい。わかりました」


 メモを書き終えて、ボールペンをノックしてポケットにしまった。今できる作業をこなしていく。少しかがんで、下の引き出しをのぞいていると、お客さんが途切れたころに、茉大は澄矢に声をかける。


「ねぇ、澄矢くん。私たちってどこかで会ったことあったかな?」

「……え?」

「すいません!」


 お客さんに呼ばれて、すぐに茉大は、対応する。

 澄矢は雫羽と名前を呼んでしまったからかと思案顔になった。


「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」


 澄矢は、横から茉大の営業スマイルをじっと見つめていた。どこからどう見ても、雫羽の顔にそっくりだった。どうして、ここまで全く違う感覚なのかと不思議で仕方ない。生まれ変わったのか。いや、年上だから、それはありえない。もう、ここにいる茉大が雫羽でいてほしいと感じてしまう。できることなら一緒にいたいという願望がよみがえる。頬を赤くして、仕事に黙々と取り組んだ。


 お客さん対応を終えた茉大は、また澄矢に近づいて、小さな紙をエプロンのポケットに入れた。


「澄矢くん、もしね、嫌じゃなければ、そこに連絡先書いてるから。都合のいい時、連絡ちょうだい。バイトの仕事のことで聞いてきてもいいよ」

「あ……」

「ごめん、迷惑だったかな?」

「いや、全然。すぐ、登録します。ありがとうございます。先輩」

「茉大でいいよぉ。先輩だと距離遠いじゃない。そこまで年齢遠くないし」

「マジっすか。何歳ですか?」

「えっと今年19歳」

「一つだけ上ですね」

「でしょう。一個違いならいいじゃん」

「はい。茉大さん」

「うん、それでいいよ。私は澄矢くんって呼ぶね」

「はい。大丈夫です」


 澄矢は、もらったメモを見返して、筆跡を確認する。

 雫羽が書く字にそっくりだった。 双子なのかもしれない。


「茉大さん、双子の姉妹っていますか?」

「え?双子いないよぉ? 私ひとりっ子だし」

「そうなんですね」

「わがままだよ?」

「別に気にしませんよ」

「あ、本当。ありがとう」


 にこにこと頬を赤くして笑顔になる。

 胸がきゅんと締め付けられた。


 ちょっとした会話で茉大の性格が見えた気がした。もっと彼女のことが知りたくなった。もしかしたら、雫羽なのかもしれないと変な期待を込めている。

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