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第3話 静かな教室

 カレンダーを見て、月曜日じゃないことを確認した澄矢は、学校の行く準備を始めた。なんとなく、今日は行けそうだと感じた。アイロンしたばかりのワイシャツに袖を通して、ズボンを履き、ブレザーを羽織る。ネクタイをしめて、全身鏡で確かめた。少し前髪がぴょんとはねていたが、水に濡らしてもまっすぐにならなかったためそのまま外に出た。


(今日のチャームポイントだ)


 誰かに見られて何か言われることを期待する。

なんともない髪型は何も言われないかと言って、ワックスでかためても珍しいねと言われて終わり。かっこよく決めても周りは見慣れていて、かっこいいなんて一言も言ってはくれないのだ。そう見慣れてしまればそうなる。毎日セットするのだって、時間がかかる。今日くらいサボってしまえと手ぐしで終わらせた。自転車に乗って、爽やかなすこし冷たい風を浴びる。踏切につかまると、主婦のおばさまや、犬の散歩途中のおばあちゃんとおじいちゃんが隣にいた。ご近所に住む人たちだが、話したことはない。ペコっとお辞儀するくらいだ。いつも通りの朝が来たと思っていた。学校の教室に入るまではそう思っていた。


「快翔、なんでお前いるんだよ」


 教室のど真ん中、たった1人で腕の中に顔を埋めながら、いつも一緒に行動する

月島快翔つきしまかいとがいた。


「は?マジか。まさか、お前が来るとは思わなかったよ。

 よく来たな!!」


「ば、バカ。親戚のおっちゃんかよ。

 いやいや、なんで、お前1人なん?」


 快翔は澄矢の肩にぐわッとせまってきた。


「そりゃ、今日が三日月曜日だからだろ?」

「え?」

「お前、何でとぼけてんの?常識だろ。日曜日の次の日は0.5日進むんだよ。そう、三日月曜日。月曜日の前の日。それは、自由に選べる日。学校がある人は、登校してもいいし、仕事の人は出勤してもいいし、休んで良い日。自由って良いよな!!」


 ぐぐぐっと澄矢の肩を押しながら、テンション高めに話す。


「んで?なんで、他のみんなは登校してないの?他のクラスもほとんど来てないし。増してや、先生も来てなくない?」

「……当たり前だろ。来る訳ないじゃん。学校なんて」


 急にテンション高かった快翔は、暗く無表情になり、真面目に席に座る。


「な、なんで?誰が授業教えてくれんの?」


 快翔は今までかけたこともないメガネを机の中から取り出して、スチャッとかけた。


「俺、今からガリ勉くんだから。 話しかけないでくれる?」


 普段勉強なんて真面目にしていない教室に快翔と澄矢の2人っきり。ものすごく静かだった。きっと他の教室にも誰もいない。人の気配を感じない。職員室、まだ行ってないが、先生がいるかどうかわからない。気になった澄矢は職員室に行こうかと 考えた。


「……職員室行こうとしてる?」

「あ、ああ。なんで考えること分かったんだ?」

「なんとなくね」


 快翔は後ろ向きのまま話す。


「行っても意味ないってこと?」

「別に……気になるなら行ってきたら?」

「……あ、ああ」


 カリカリとシャーペンが走る音が響く。 やんちゃな快翔が真面目に勉強するなんて信じられない。落ちてきたメガネのズレを調整している。別人なんだろうか。


「んじゃ職員室行ってくる」

「お、おう」


 快翔は教科書とノートを広げた机の上で

手を一瞬だけとめた。澄矢はいつもと違う学校の様子が気になって、職員室に向かった。廊下に出るとどこからともなく不気味に窓から入る風の音がヒューと流れてた。ここは現実で合っているのだろうか。


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