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第14話 実験室と失われた技術

 冬夜たちは特別棟の食堂を飛び出し、生徒会室と同じ三階にある爆発音のした実験室へ向かう。


「ほんとに大丈夫なのか? すごい爆発音と振動だったけど……」

「大丈夫よ……説明するよりも自分の目で見たほうが早いわらだから」


 リーゼと並んで前を歩く言乃花が呆れた様子で答える。


「冬夜くん、実験室の中にいる人は大丈夫かな?」

「俺も心配だよ。取り残された人がいるなら、すぐに助けにいかないと……」


 不安で押し殺されそうな表情のメイを見て、心が締め付けられそうになる冬夜。同時に、慌てる様子もなく平然と先を歩くリーゼ達に苛立ちを覚える。


「ほら、見えてきたわよ。が!」


 怒気をはらんだリーゼの声が聞こえてきた。そして視線を実験室の方向にむけた瞬間、先ほどまでの苛立ちや感情は一気に吹き飛んだ。


「いったいどういう事だよ……あれだけの爆発音があったのに、何も変わった様子がないって……」


 言乃花がため息をつきながら冬夜たちに話しかける。


「はぁ、? 話したところで納得しないから自分の目で見たほうがいいって」


 冬夜、メイ、ソフィーの三人は驚きを隠せず、その場に立ち尽くしてしまう。校舎を揺らすほどの爆発音と衝撃がありながら、校舎はおろかドア一つ壊れた様子はない。困惑する冬夜たちをよそに、リーゼが勢いよく実験室の扉を開ける。


「ちょっといるんでしょ? 芹澤! あれほど爆発させるような実験はやめなさい! って、この間の会議でも言ったばっかりでしょうが!」


 実験室内にもうもうと立ち込めていた煙が出口が空いたことにより、一気に晴れていく。そして、顎に右手を当て腕組をして考え込む芹澤副会長が現れる。


「ふむ……なかなかの煙だな。ん? リーゼくんではないか。いったいどうしたんだ?」

「どうしたってね……あんたね……」

「ノックもなしに扉を乱暴に開けるとは……礼儀を欠いた行動だとは思わないのか?」

「あんな爆発音を響かせる人に礼儀について言われたくないわ!」


 全くかみ合わない二人の会話。怒り心頭のリーゼと、意に介さない芹澤の話し合いは一向に進まない。すると意外な人物が声を張り上げた。


「いい加減にしなさい! 言いたいことがあるなら後でゆっくりやりなさい!」


 普段からは想像できない言乃花の大声に実験室の空気は一変した。


「リーゼ、あなた生徒会長でしょ? もう少し冷静に対処することはできないの?」

「ハイ。スイマセン……」

「副会長? 実験をするなとは言いませんが、ほどほどにと言われていませんでしたか? 今後、このようなことが続くようなら……」

「申し訳ない。ぜ、善処することを約束する。なにとぞ穏便に……」


 室内を支配する無言の圧力に、先ほどまでいがみ合っていた二人が揃って正座している。入口から中の様子をうかがっていた三人はその迫力に圧倒され、その場から動けない。


「生徒会で一番怖いのは言乃花じゃないのか……」


 そばにいたメイにも聞こえないくらいの小声でつぶやいたはずだった冬夜。



 その言葉は冬夜にはっきりと聞こえた。しかし、そばにいるほかの二人に聞こえている様子はない。


(言乃花だけは絶対に怒らせないでいよう……)


 底知れぬ恐怖に固く心に誓う冬夜であった。


 三人の話し合いが終わり、今回の件は被害がなかったこともあって不問とされた。


「改めて、我が研究室へようこそ。諸君」


 先ほどまでの悲壮感漂う顔色から一変し、生き生きとした笑顔で招き入れるプロフェッサー芹澤。実験室の中は十五名ほどの生徒が入れる広さがあった。実験台が二列に並び、備え付けられた棚にはビーカーや試験管などの機材が所せましと並んでいる。そして、奥の実験台にはコポコポと音をたてて動く見慣れない機械が置いてある。


「芹澤さんはどんな実験をされているのですか?」


 興味深そうに実験室をキョロキョロと見ていたメイが質問する。


「よくぞ聞いてくれた! この実験室で日夜行われているのは、なのだ! まだ極秘事項が多く、全てを明かせないのが残念だがな。一つ言えるのは、を取り戻せるかもしれないということだ」

「失われた技術?」

「そう、失われた技術。だ」


 いにしえの時代に存在し、闇へ消えたはずの技術。

 なぜ芹澤が復活させようとしているのか?

 裏でうごめく思惑を誰も知る由はなかった……

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