学園長から告げられたのは一番知られたくなかった真実。呆然とする冬夜にさらなる追い打ちが襲う。
「おや? そんなにビックリするようなことだったかな?」
動揺する冬夜の反応を心から楽しんでいるように笑みを浮かべる学園長。
「いえ、大丈夫です。
必死に冷静になろうと取り繕う冬夜を学園長が見逃すことはなく、さらなる追い討ちが襲いかかる。
「では続きを話そうか。命を落としかねない状態であった君は、
「……学園長、あなたは何者なんだ? なぜそこまで詳しく知っている?」
「ふふふ……少なからず私も
淡々と語りつつも、普段となんら変わらない笑顔の学園長。眼鏡の奥に光る瞳は底知れぬ闇深さが感じられる。
(クソッ……
学園長と面談を始めてまだ数十分しか過ぎていないのに、数時間は経過したかのような重苦しい空気が部屋を支配していく。
「どうしたんだい? いやに顔色が悪いみたいだけど?」
「いえ、そんなことはありませんよ。俺に話した意図とはいったい何でしょうか?」
混乱する頭の中で必死に状況を整理しようとする。目の前にいる学園長を信頼できる確信が全く持てないのだ。
「そんな睨みつけるような目をされると悲しいな。そんなに遠くない未来だが、君たちは
「俺の力ですべてが決まる……?」
「そう、もう一人……鍵となる人物はいるけどね。君自身がこの先どう動くのか、どう力を使用するかによって全ては決まる。ましてや、
凍てつくような目で冬夜を射抜く学園長。その視線には明確な冷たさが感じられる。
「幸い事態は大きく動き出すことにはなっていない。まだ時間はある、
「そんなことが可能なのでしょうか?」
突然の学園長の申し出に戸惑ってしまう冬夜。
「可能だ。君の力が暴走したら危険すぎる。迷宮図書館の二の舞を引き起こしかねない。大切な仲間を守るためには、君自身も成長しなくてはいけないだろう? そのために放課後こっそり自主トレーニングをしているんだよね?」
「バレていましたか……」
「生徒たちの動向を把握するのは当然だよ、無茶をさせないためには。よほどノルン戦のことが悔しかったようだぬ」
学園長から指摘され、ノルンと対峙した時のことを思い出す。言乃花が止めに入らなければ、ノルンだけでなく彼女も巻き込んで大惨事を引き起こしていたかもしれない。
「はい、リーゼ、言乃花に頼るわけにはいきません。しかし、このままではダメだと俺自身、危機感を抱いていたので助かります」
「さすが理解が早いね。リーゼちゃんはじめ生徒会のメンバーの協力が必要不可欠だから伝えておくよ。まだ全員とは会っていなかったよね?」
「はい、全員で四人でしたよね? あと二人とはまだお会いしていないですね」
「うんうん。
ニコニコと話す学園長。近日中に残りの二人と会う機会を用意するとのことで話は終わった。
「では失礼します」
「困ったことがあれば、いつでも訪ねてきてくれてかまわないよ」
静まり返った室内に冬夜の閉めた扉の音が響く。残された学園長が誰もいるはずのない空間に話しかける。
「君の目から見てどうだった?
魔法で擬態していた壁の一部が崩れ落ちると白衣をまとい、青色の髪をした学園長と変わらぬ背丈の男子生徒が現れた。ボサボサの髪をガシガシとかきむしると、銀フレームの眼鏡がキラリと光る。
「彼の過去の話は信じがたいですが、非常に興味深い経歴の持ち主ですね。彼と接触が楽しみでしょうがない!」
「それは良かった。彼のカリキュラムの一部は君に任せているけど、実験に巻き込むのだけは勘弁してくれよ」
「何をおっしゃっているのかよくわかりませんね。実験こそ我がアイデンティティ! やめろというのは酷なお話では?」
「……校舎と実験室を壊れないように維持しているのは僕なんだけどな……」
「実験には失敗はつきもの! 失敗の先に成功がある。そうですよね?」
らんらんと目を輝かせて熱弁をする副会長。対照的に額に手をあて項垂れる学園長。
「まあ、あとは任せたからほどほどに頼んだよ」
「お任せください。では実験が忙しいので失礼いたしますね」
乱れた髪を再度ガシガシとかきむしると白衣をなびかせ学園長室を後にする副会長。
「人選を間違えたか……いや、
残された室内で楽しそうにほほ笑む学園長。
学園長を圧倒するほどの副会長にカリキュラムを組まれる冬夜の運命はいかに?