予期せぬ
「ヤツの気配は……ない。よし、大丈夫だ」
「
ここ最近、立て続けに起こった襲来に混乱した声にリーゼが冬夜へ詰め寄ろうとした時、なだめるように話しかける言乃花。
「苛立ってもしょうがないわよ、リーゼ。それよりもメイさんたちの気持ちを落ち着かせることが大事よね、ソフィーちゃん?」
「リーゼさん……」
リーゼのもとに駆け寄るとぎゅっと抱き着くソフィー。先ほどの恐怖から体が小刻みに震えているのが伝わってくる。
(本当は怖いはずなのに必死にメイちゃんを守ろうと立ち向かっていたのね。ん? 抱きつかれている? ここはお姉さんとしてちゃんと落ち着かせてあげないと!)
そっとしゃがみ込むとソフィーを安心させるように優しく抱きしめるリーゼ。しばらくしてソフィーの体の震えがおさまりかけた時、耳元で言乃花がささやく。
「……
身体を大きくビクつかせると、そっとソフィーを抱きしめる手を緩めると右手で頭をなでながら笑顔で語りかける。
「これで落ち着いた? ソフィーちゃん?」
「ありがとうございます、リーゼさん」
ニコニコしながら答えるソフィーに頬が緩みかける。突き刺さる言乃花の視線により紙一重で我に返る。そして、気を引き締めなおすと場を仕切り直す。
「私からの提案だけど、しっかり話を共有しておいたほうがいいと思うわ。みんな、窓際の席に座らない?」
リーゼが食堂の窓際にあるテーブルを指し、冬夜たちも指示に従う。窓際の奥から言乃花、リーゼ、冬夜。向かいにメイ、ソフィーの順で座る。
「さて、ゆっくりでいいから話してもらえるかしら? 過去に創造主と何があったのか」
「ああ、わかった。っと、言いたいところだが、記憶があやふやな部分も多いから、話せるところだけ話させてもらう」
そう話すと大きく息を吸い、ゆっくりと話し始める。
「あれは、九年前の春だった。家の近所の公園で遊んでいた俺の目の前を、見たこともない生き物が横切ったんだ。思い出しても例えようがないそいつを、夢中で追いかけたんだ。気がついたときには見覚えのない神殿のような場所にたどり着いていた」
淡々と九年前の事件を語り始める冬夜。
「その後、俺はヤツ……
冬夜が次の言葉を話そうとした時、視界にある人物の姿が目に入る。
「ちょっと待った。学園長?
少し離れた壁に冬夜の視線が釘付けとなり、他のメンバーも気が付いた。そこにいたのは右手を顎に当てながら真剣な眼差しで立っている学園長。
「いや、面白そうな話をしていたからね。あ、僕のことは気にせず、続きを話したまえ」
ニコニコとした笑顔で答えるとこちらにゆっくり近づいてくる学園長。
予想外の人物の登場に隣に座るリーゼ達と小声で相談を始める。
「この話はあまり聞かれたくないんだよな、特に学園長には……」
「何か問題があるの?」
「詳しくは話せないけど、メイと関連がある気がするんだ……今回の件も学園長が絡んでる予感がする」
じっと聞いていた言乃花が口を開く。
「うまく話をそらすのが懸命な判断よ。
「「「間違いない」」」
満場一致だった。そして、リーゼに耳打ちをする言乃花。
「そういうこと。この話は後日改めて聞きましょう。リーゼ、あとは頼んだわよ」
リーゼは軽くうなずき静かに深呼吸をする。そして、近づいてくる学園長に対し、鋭く睨みをきかせながら話しかける。
「学園長? いつからそこに立っていらっしゃいました? というか、なんであなたは肝心な時にいつもいなくて、こういう時だけ現れるんですか!」
いつもの学園長とリーゼのやり取りに張りつめた緊張感が薄れていく。
「リーゼちゃん、冬夜くんが真剣なお話をしているときに話の腰を折るような真似はよくないと思うな」
「誰のせいで話がぶった切られたと思っているんですか? そもそも、いつからそこにいたんですか?」
「うん、いい質問だ! 『あやふやな部分が多いから』の辺りからこっそり聞いていたんだよね」
「最初から聞いているんじゃないですか!(ねーか!)」
リーゼと冬夜の絶叫が重なり、学園中に響き渡る。学園長の登場により、話し合いはここでお開きとなる。
「そうそうリーゼちゃん、そろそろ
「そうですね。近いうちに私と言乃花以外のメンバーにも会っていただく予定です」
「なるほどね。副会長は
「
「なんのことかな? じゃあ、あとはよろしく」
リーゼと話を終えた学園長が冬夜とすれ違った時だった。
「
ギョッとした表情で振り向くともう学園長の姿はない。
(俺と創造主の因縁を知っているのか? 学園長、あなたはいったい何者だ……)
冬夜と創造主の関係を知っていたかのように全てを見透かした意味深な発言。
学園長はどこまで知っているのか……