冬夜たちが迷宮図書館へ向かい始めた頃、別次元にある宮殿内。沈痛な面持ちで片ひざをつき、玉座に座る人物へ報告を行うノルンの姿があった。
「……以上が迷宮図書館にて起きた事案です。今後の対処はいかがいたしましょうか?
ノルンが見上げる先の人物こそ、三大妖精を束ねる長『
「よい、現段階では最上の出来である。引き続き監視の目を緩めるな、動きがあればお前たちに対処は任せる」
「はい、ご期待に添えるよう動きます。失礼します」
頭を下げると足早に立ち去るノルン。
「
誰もいない空間に響き渡る憎しみをはらんだ声。
創造主の思惑と共に計画は進み始めた。
創造主へ報告を無事に終えたが、納得がいかず険しい表情のまま回廊を歩くノルン。
(今回の件はお咎めなしということですか……不可解な点がいくつもありますしね。あまりに
不自然な点がいくつかあり、考えを巡らせながら歩いていく。次の瞬間、微かな殺気を感じ、咄嗟に左側に体をよけると一筋の光が空を切る。
「チェッ、気づかれたら面白くないのに……」
「ハァ……
柱の陰か姿を現したのは珍しくフードをとり、少し膨れっ面をしたフェイ。
「たまには引っかかってくれてもいいのにね。こないだの件、創造主様から嫌味の一つでも言われたのでしょ?」
「何を言っているのかよくわかりませんね。あなたみたいなミスを犯すほど愚かではないですよ」
悔しそうなフェイを横目に涼しい顔で通り過ぎるノルン。何か驚かせなければ気が済まないフェイが、次の仕掛けを発動しようとしたその瞬間、首筋に冷たい刃が突きつけられる。
「動くと綺麗なお顔と胴体が、
暗闇の中から音もたてず、後ろから首元に刃を突き付ける人物。天窓から一筋の光が差し込みその姿が明らかになる。
「相変わらず物騒なものを持ち歩いていらっしゃいますよね、アビーさん?」
「あら? あなたのやろうとしたことに比べたらどうなのでしょうか?」
フェイの喉元に刃を突き付けた人物。ノルンと瓜二つの顔をしたアビーである。違いは、ノルンと左右対称に瞳が隠れていること、ノルンより若干髪が長いこと。そして、『ポイズニングダガー・スコルピオ』を携帯していることである。
「アビー、そのくらいにしてあげてください。非常に面白い物を見てきましたので、あなたにもゆっくり話して差し上げたいのですよ」
「はい、ノルンお姉様」
ノルンの一声で解放され、安堵の表情となるフェイ。そして、アビーは後を追いかけるように小走りで回廊の奥へ消えていった。
「ノルンの言うことしか聞かないのは、どうにかしてもらいたいものだけど……」
自らに突き付けられた殺気が消えたことがわかると大きく息を吐き、安堵した表情を浮かべる。
(あの二人はお互いのこととなると、容赦ない狂気の塊だからね)
アビーは妖精ではない。
「もう少し愛想よくてもいいと思うけど……さて、創造主様の計画は順調に進み始めているようだし、僕もそろそろ動く出番が来そうかな?
長い回廊を歩み始め、不敵な笑みを浮かべるフェイ。
未だ見えてこない創造主の計画と動きだす妖精たち。
不穏な影は何も知らない冬夜たちに確実に近づいていた……