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第11話 もう一人の苦労人

 冬夜たちが学園長と面談を始めた頃、別次元に存在する宮殿内。床は真っ白いタイルが敷きつめられ、両側に細かな彫刻が施されている柱が規則正しく並んでいた。芸術的な雰囲気な回廊とは対照的に傷だらけの体を引きずりながら歩く人影があった。


「くそっ……邪魔さえ入らなければ……」

「ずいぶん派手にやらかしてくれたみたいですね? あれほど『』と言ったはずですが? フェイ」


 不貞腐れた表情で文句をつぶやいていたフェイが慌てて振り返る。柱の陰から音もなく、姿を現したのは三大妖精セカンド『ノルン』。薄紫色をしたショートボブ、真っ直ぐ伸びた前髪がルビーのような紅い瞳の左目を隠している。呆れた表情をしているが、右目から向けられた射貫くような視線には、明確な怒りと殺意が込められており、思わず後ずさりしてしまうフェイ。


「う、うるさい! いちいち僕のやることに口を出すな!」

「あなたが何をしようと別に構わないですよ。余計な事をして創造主ワイズマン様の計画に支障が出なければ良いのです」


 フェイが大きな失敗をするのは今回が初めてではない。調子に乗り、すぐに頭に血がのぼる性格が災いしてノルンから小言と嫌味を言われ続けている。そのため反省することなどなく、同じように口をとがらせながら拗ねたような表情を浮かべて反論する。


「ふ、ふん! お前に言われなくてもわかっているよ!」

「何をどうわかっているのですか? しなさい!」


 刃物で切り付けられるような指摘をノルンから受けたフェイは返す言葉がない。真っ赤になった顔を背け、足早に回廊の奥へ消えていった。


「はぁ……後始末をするのは誰だと思っているのでしょう。好奇心旺盛なのは結構ですが、もう少し慎重に動いていただけないものでしょうか……」


 静寂が戻る回廊でノルンは大きく息を吐くと考えを巡らせる。フェイが問題を起こすたびに後始末を担当し、これまでも必要最小限の被害に収めてきた。しかし、今回は別件の調査を進めていたため、フェイの暴走を止められずに危うく取り返しのできない事態を招くところだった。ただ、冬夜の覚醒があり、結果としては収穫のほうが大きかったが……


とはいえ、フェイにここまでの傷を負わせるとは……天ケ瀬冬夜あまがせとうやくんでしたか……なかなか面白い子ですね」


 思わず笑みをこぼすノルンだが、すぐに険しい表情に変わる。


あのお方ワイズマンが何を考えておられるのかは我々ではわかりません。まともに魔法すら使えない人間になぜ執着する必要があるのか……」


 小声で呟きながら回廊の奥へ広がる暗闇へ視線を向けた。


誰かさんフェイのせいで一番厄介な人物学園長が出てきてしまったのは大きな痛手です、できることなら……」


 きりきりと歯をきしませ、苛立ちを露わにするノルン。


「いけませんね、私としたことが……学園長と正面から敵対するのは避けなければなりません。学園サイドが動き出すのは時間の問題、となればこちらも早急に手を打たなければいけませんね」


 左手を顎に当て、考え込むような表情をすると、すぐに名案が浮かんだのか左の口元が吊り上がる。


「早急に冬夜くんと接触しましょうか。我々の計画に影響を与えることなど人間には不可能でしょうが……それにしても、あのバカはどうしてこうも次から次へと問題ばかり引き起こしてくれるのでしょうね? フォローする身にもなっていただきたいですよ……ふふ、ですね」


 ノルンは暗闇の先に向け歩き出した、次なる一手を考えながら。しかし、頭をよぎるのは誰かさんフェイが起こしたことによる懸念材料ばかり。邪念を振り払うかのように頭を横に振る。


迷宮図書館ラビリンスライブラリに侵入するのは少々骨が折れますが、必要な情報を得るには仕方ありません。それに……お楽しみは最後と決まっていますから」


 不敵な笑みを浮かべながら暗闇が続く回廊を歩きはじめるノルン。

 彼女が考える次なる計画と迷宮図書館に隠された秘密とは?

 さまざまな思惑が交錯し、冬夜たちの知らぬところで不穏な影は動き始めた……

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