(……しばらく帰って来られないと思うけど、見守っていてね。クソ親父め、どこに行ったんだ……必ず|九《・》|年《・》|前《・》|の《・》|出《・》|来《・》|事《・》をはっきりさせてくる)
「母さん、行ってきます!」
遺影に手を合わせると毎朝必ず行っている母親の挨拶を済ませ、少し寂しそうな顔する冬夜。
母親は前にこの世を去ってしまった、冬夜がもの心つく前に……そのため幼少期より父方の祖父母と父親に育てられてきた。
唯一の肉親である父親も数年前、意味深な言葉を残し、突然家を出て行った。泣きながら『行かないで!』と懇願する冬夜を残し……
「すまない、冬夜。どうしても
渡されたのはダークシルバーのロザリオ。中心には全ての闇を飲み込むかのような漆黒の小さなブラックオニキス。
ある決意を胸に父親は幼い冬夜へ妻の形見を託すと家を出ていった。冬夜は渡された日からロザリオを首から下げ、肌身離さず身に着けている。
「じいちゃん、ばあちゃん! 行ってきます!」
「気をつけていくのじゃよ」
「休みには帰ってきなさいよ。たまには連絡もしなさいよ」
「うん、分かった! じゃあ、行ってきます」
祖父母に駅まで送ってもらい、冬夜は笑顔で電車に乗り出発した。
「
「大丈夫ですよ。きっと乗り越えて帰って来ますよ」
行き交う人々の声と踏み切りの音が響くホームで姿の見えなくなった電車を見つめる祖父母。まるで冬夜に待ち受ける運命を案しているかのように……
(待ち合わせ場所はっと……霧の森? マジか? 森の中と言えど指定された場所までは地図に詳しく書いてあるし、先に学園の人が待ち合わせ場所へ来てくれるはずだから大丈夫……だよな? いや……考えるのはやめよう。まだ到着まではしばらくかかるし……少し寝るか)
待ち合わせ場所はいわく付きの場所であり、不安を押し込めるよう言い聞かせる冬夜。暖かい春の陽気と電車の心地よい揺れに身を預け、ゆっくりと意識を手放した。
『君はだれ? どうして泣いているの? ……そっか、一緒にここを出ようよ! 僕が外の世界を君に案内するよ! 名前を教えて! 僕の名前は……
(夢か……もう九年もたつのか……|あ《・》|の《・》|女《・》|の《・》|子《・》|の《・》ような気がするけど、はっきりとは思い出せない……ああ、もうすぐ着くな)
懐かしさが残る夢の余韻に浸りながら目を覚ますと最寄り駅に到着するアナウンスが流れた。慌てて荷物をまとめて、電車を降りる準備を始める冬夜。そして、駅の改札を出るとバスターミナルへ向かう。指定された場所まではバスで向かうことになる
「森の中に入るのはかなり不安だ……でも地図があるし。どんな人が迎えに来るのか、楽しみだな」
新たな学園生活に思いを馳せながら、冬夜はバスに乗り込んだ。
まさか自らの命運を決定付ける出来事が待ち受けているとも知らず……