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第2話 同時刻の学園では……

「もう冬夜くんが学園にくる季節か……月日が経つのは早いね」


 心地よい日差しが降り注ぐ窓際に立ち、学園を囲むように深い霧に包まれた森を眺めながら呟く男性。彼こそワールドエンドミスティアカデミー学園長である。赤茶の長髪を後ろで束ねて細いメガネをかけ、身長は百七十五センチほどの引き締まった細身。かなり若くみえる彼がなぜ学園長なのか……詳細な情報は全て謎に包まれている。


「学園長! 例の新入生について……あまりにも不可解なんですが? 頂いた資料を見てもサッパリ意味がわからないし、なんで彼だけ……? あ! 先日頼んだ件はどうなりました?」


 制服を着た少女が重厚な学園長室の扉を勢いよく開け、怒鳴りながら詰め寄ってきた。身長差があるため見下ろす形になりながら、学園長が冗談交じりに答える。


「あれ? 何でそんなにピリピリしているのかな? イライラはお肌に良くないよ、リーゼちゃん」

「いい加減にしてください! この前だって……」

「ほらほら、常に楽しく笑顔でいなきゃ人生楽しめないよ?」

「誰のせいでイライラしていると思っているんですか!」


 的を射ない学園長の回答に手に持った資料を丸め、全身を震わせながら怒鳴りつけてきたのは生徒会長のリーゼ・アズリズルである。身長百五十九センチで透き通るような銀髪をポニーテールにまとめ、コバルトブルーの瞳をしている。生徒からの人望も厚いが、真面目過ぎる性格が災いしてよく学園長にいじり倒されている。

 彼女は『幻想世界』から学園に入学してきた生徒だ。


を迎えるために忙しいんじゃなかったの?」

「誰のせいでクッソ忙しいと思ってるんですか? ちゃんとした資料を用意しておいてくださいよ!」


 学園長に怒鳴りつけると体の向きを変え、肩を震わせながら部屋を出ていくリーゼ。


「フフフ……楽しみにしているくせに素直じゃないな」


 勢いよく閉められた扉を眺めながら笑みを浮かべる学園長。そして再び訪れる静寂……


「さて、彼は自力でたどり着き、彼女を救うことが出来るのかな? ――陰と陽が交わる時、か――面白くなりそうだね」


 意味深な言葉を一人つぶやく。

 まるで全ての未来を見透かしているように……


創造主ワイズマンの思い通りになんか進ませないよ……この世界に残された時間は多くはない……さあ、どういった結末未来を導いて楽しませてくれるのかな? 天ヶ瀬 冬夜くん。と出会えるように期待しているよ」


 世界の終焉がすぐそばまで迫っているという、危機的状況ですら楽しんでいるようにも見える学園長。


「さてさて……噂をすれば、が入り込んだみたいだね。ちょっと遊んであげようかな?」


 小声で短い詠唱を唱えると目の前にゲートが現れ、スッと中に吸い込まれていく。誰もいなくなった室内には静寂だけが取り残されていた。



 廊下を歩きながら冷静さを取り戻し始めたリーゼ。


(まったく、毎回掌の上で踊らされているような気がするわ……学園長がいつも意味深にいう彼女って一体誰のことなの?)


 廊下の真ん中で立ち止まると、左手に持って資料を広げて読み返すリーゼ。先ほどの学園長の独り言を思い返す。しかし、考えれば考えるほど不可解な点が次々と出てくるため一向に気が晴れない。


(きっと裏があるはず……だけど、|何《・》|か《・》|企《・》|ん《・》|で《・》|る《・》|学《・》|園《・》|長《・》|に《・》|関《・》|わ《・》|る《・》とろくなことがないし……だめだめ、新入生を迎える準備に集中しないと)


 モヤモヤした気持ちを振り払おう首を左右に振ると速足で生徒会室へ向かう。

 学園長のいう残された時間とは冬夜が呼ばれた理由は何を指しているのか? 

 そしていったい何者なのか? 

 リーゼが知らない水面下の動きとは?


 そう遠くない未来、彼女の想像をはるかに超えた出来事に巻き込まれていくとは知る由もなかった。



 ――冬夜が学園を訪れるまで残り三日――

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