チーズケーキの準備はOK
16時頃行けると思います、とメッセージをくれた歩くんも来てくれたばかり。
「何か飲む?」
「いえ、実家でコーヒーを飲んで来たので」
「うん、じゃあ何かいる時は言ってね!」
「はい。それじゃあ早速欲しいものがあるんですけど」
「え、なに? お腹すいた?」
それに歩くんはニヤリと笑んで、腕を広げた。
あ、と声が出た瞬間にはもう歩くんの手が私の背中に回っていた。
「充電」
「ふふ。……実家行って疲れたの?」
「そうですよ、だから癒やしてくださいね」
歩くんはそう言うと腕の力を強めるので、私も自分の手を歩くんの背中に回し、顔を歩くんの胸にうずめる。
「彩葉」
「ん?」
呼び掛けに応えるようにゆっくり顔を上げると待ち切れないとばかりに歩くんの唇が私の額におりてくる。くすぐったさと嬉しさに、ふふ、と笑うと漏れた吐息ごと奪うように唇が塞がれた。
しっとりと重なり意識が溶けそうになる寸前で歩くんの顔が離れ、腕の力も緩まる。
「充電完了」
「ふふっ、もう」
恥ずかしさに直視出来なくて顔を隠すように歩くんの胸におでこを押し付ける。
「それ以上可愛いことすると続きしますよ?」
「えっ?」
咄嗟に歩くんの目を見上げると、歩くんは優しく微笑んでいる。
「さあ、どうしましょう?」
「えっと……」
「どうします?」
「あ、あっ、あれあれ」
「?」
「友梨さんからのチョコって?」
話をそらしたことで歩くんは軽くため息を吐いた。やってしまったかな、と焦っていると「色気より食い気ですからね」と小さくこぼされる。
「はい、これ友梨からですよ」
そう言って歩くんの荷物から出て来たのはまさかの大きさで、縦約20cm、横約30cmはあるかという大きな箱だった。
「さすがアメリカ? 箱までビッグサイズ?」
「ですよね、ほんとデカ過ぎ。実家にもこれくらいの大きさを二箱ですからね? 誰が食べるんだって話しですよ」
「二箱!?」
「そうですよ、友梨は親父をチョコ漬けにして糖尿病にでもしたいんですかね?」
「いや、糖尿病って。友梨さんの場合――」
「何も考えてないですよ。知ってますよ。友梨にあるのは好意だけなんです。だから余計にたちが悪い」
「はは、……でも友梨さんらしいじゃない? チョコなんてすぐに腐るものでもないし、ゆっくり食べるよ。それよりさ、結城さんにもらったトリュフを先に食べないと!」
「あ〜。……っていうか彩葉がもらってたのだけ大きくなかったです?」
「見てたの?」
「まあ……」
「結城さんのお菓子が好きって言ったらたくさんあげますって言ってくれたんだよねぇ〜」
言いながら私は結城さんからもらった赤い箱をテーブルに置いて箱を開けた。中にはトリュフが12粒入っている。
「歩くんは結城さんからもらったチョコ、……その、……食べれそう?」
「まあ……、そうですね。昨日家に持って帰った時は無理かもって思ったんですけど、彩葉と一緒にいる今なら、……いけるかも? ……しれないですけど、いや、やっぱり……」
「無理はしないで? だけど結城さんのお菓子はプロ級だよ。ほんとに美味しいんだから」
美味しいと証明するようにトリュフを1粒口に入れると、ゆっくりと溶けていき、とろりと舌の上で消えていく。
「ん〜〜〜美味しい〜」
「ほんと幸せそうに食べますね。じゃあ僕も少しだけ食べてみようかな」
歩くんの決意に驚きながらも赤い箱を差し出すが、歩くんは赤い箱に手を伸ばすことなく、その手は私の顎を捕える。
何が起こったか理解出来た頃には、私の唇と歩くんの唇は再び重なり、隙間から舌が差し込まれトリュフの溶けたばかりの舌を攫うように歩くんの舌が口内をうごめく。
「彩葉、甘い」
「んん」
チョコの甘さか、はたまた歩くんの甘さか、溶けていく私の意識はそれを判別することはできなかった。