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第87話

 土曜朝。

 起きてすぐに冷蔵庫からクリームチーズを出し、朝ごはんを軽く食べ、掃除をし、そして台所に立つ。


「さて、作るか」


 冷蔵庫から出していたクリームチーズを指で触るがまだ、


「固い? 常温に戻ってないってことだよね?」


 あ〜〜〜心配だ。

 上手く出来るかも心配だし、歩くんが抵抗なく食べてくれるかも心配だ。


「あ〜〜〜って悩んでてもしょうがない!! よし、早速電話しよう!」


 スマホから電話を表示しアドレスを下の方までスクロールし、受話器ボタンを押すと4コール後にその相手は出た。


『もしもーし、どうしました?』

「ごめん、朝から。おはよう結城さん」


 私が電話をかけた相手はお菓子作りのスペシャリスト結城麗奈さん。


「あのね、クリームチーズを常温ってどうなったら常温? 起きて冷蔵庫から出してたんだけどまだ冷たいし、柔らかい感じもしないんだよね」

『あー、なるほど〜! それじゃあまずはボールにうつしてヘラで潰してみてください。あまりに固いようなら、耐熱容器にうつしてレンチンしたら大丈夫ですよ〜!』

「チンしていいんだ」

『でも、15秒ずつですよ! 加熱したら必ず柔らかさを確認してくださいね!』

「15秒ずつね! 分かった、ありがとう結城さん!!」

『いえいえです〜。頑張ってくださいねっ!』

「はーい、頑張りまーす。じゃあね」

『失礼しま〜す』


 そっか。少しずつレンジでチンしていけばいいのか! さすが結城さん!


「さてと」


 早速教えてもらった通りにクリームチーズをボールにうつしてヘラでぎゅうっと押してみる。


「あれ? わりと柔らかいんじゃない?」


 もしくは私の力が強いのか? なんて考えながらぐにぐにと潰していくが真ん中あたりはまだ冷たいようだ。

 耐熱容器を出し、クリームチーズを入れ直すとレンジにかける。時間は15秒に設定し加熱ボタンを押す。待つこと15秒。


『ピー』


 取り出したクリームチーズを再度ヘラで潰してみると先ほどより柔らかくなっていた。真ん中あたりもゆっくりと潰れていく。


「これ以上はもうチンしない方がいいよね?」


 自分で言って首を傾げながら柔らかくなったクリームチーズをボールに戻した。


「それから次の工程は……、クリームチーズをクリーム状に練る、と」


 工程に沿って手を動かす。


 次はクリーム状になったクリームチーズに砂糖を入れ混ぜ、混ざったら玉子、それから生クリーム、最後にふるいにかけた小麦粉を順番に入れて混ぜ合わせていく。


 混ぜ合わせた液をクッキングシートをひいた型に流し込み、180℃に余熱したオーブンで35〜40分ほど焼き、粗熱を取る。それから冷蔵庫でひと晩冷やせば完成だ。


 オーブンから出したばかりのチーズケーキはふっくらと膨らんでいるのだが、冷ましていくうちにどうやら真ん中が凹んでいくらしい。


「う〜ん、いい匂い! 初めてにしては良い出来なんじゃない?」


 自画自賛しながらもう一度匂いを吸い込む。


「歩くん、食べてくれるかな? あ〜〜やっぱり緊張する〜〜〜」


 愛を込めて作ったよ、なんて言いたいけど、絶対言えない。愛を込められてるなんて知ったら歩くんのことだ、ゴミ箱に捨てかねない。


「捨てる? まさか? ……食べれない、はあるとしよう。だけどまさか彼女が作ったケーキは捨てないよね?」


――捨てないよね? 歩くん?


 もう覚悟を決めておこう。捨てられても泣かないって。勝手に作った私が悪いんだって。


 だけどもしかしたら食べてくれると期待する気持ちも残していていいですか?






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