気を抜けば、「♪ジングルベ〜ル」と鼻歌を歌ってしまうほど私は浮かれていた。
外へと一歩踏み出せば街中がきらびやかに彩られ、年甲斐もなく心が弾み、足だって軽やかにステップを踏みたくなる。
だって今日は歩くんと付き合って初めてのクリスマスイブなんだもん。今日くらい浮かれても神様は許してくれるよね?
歩くんへのプレゼントも用意したし、予約していたケーキも受け取った。まだ仕事が終わらない歩くんを置いて先に家に帰って支度しよう。
『お店予約します。フレンチでいいですか?』
数週間前にそう提案してくれた歩くんの言葉に、私は首を振っていた。
『私の家でクリスマスしない?』
『別に彩葉がそれでいいなら……』
きっと色々考えてようやく口にしてくれたのだろうに、私がそれを拒んだのだから喜んでもらえるよう精一杯おもてなししなければ。
家に帰ると小さなツリーがお出迎えしてくれる。
「ただいま、電気付けるね〜」
ツリーに付いた電飾に明かりをともす。優しい光があっという間にツリーを彩った。
「さてさて、チキン焼かなきゃ!」
冷蔵庫からジップロックに入れていた骨付きの鶏もも肉を出す。実は雅くん特製のタレをもらったのは秘密。
「いやあ、だってねこれ美味しいんだよ。フライパンでも焼けるって言うからさぁ〜」
誰に向けるでもない独り言は戸棚の奥へ吸い込まれ、そこから出したフライパンの上に鶏もも肉だけのせてじっくり焼いていく。特製タレは最後に絡めるのだ。
チキンを焼いている間、サラダの支度をする。
そういえば、と鞄の中に入れっぱなしだったスマホを出すと歩くんからメッセージが届いていた。
そこには『終わりました。今から行きますけど、必要なものがあれば買って行きますよ?』とある。
必要なもの……、と考えてみるが特段浮かばなかったので『大丈夫だよ!』と送り返した。すぐに既読が付いたかと思えば『了解です』と届く。
「よし、それじゃスープとパスタも準備しよっと〜♪」
ふんふんふ〜んと鼻歌交じりに台所に戻ると鼻より手を動かした。
*
「「メリークリスマス!!」」
二つのグラスが高い音を響かせる。赤いワインが手元で揺れるのを見て口を付ける。
「うーん! 友梨さんに感謝だね!」
一週間前、歩くん家ではなく私の家にアメリカから届いたのだ。
「別にいいですよ、勝手に送り付けて来ただけなんですから。それよりこのチキンどうしたんですか!? 骨が付いてますよ!」
「ふふ〜ん、スゴイでしょ?」
「え? 待って、買ったんじゃなくて?」
「この時期だけだと思うんだけど、そこのスーパーでも普通に骨付きの鶏もも肉売ってるんだよ! だからね、今フライパンで焼いたの! 食べてみて、食べてみて!!」
このひと月ほどですっかり私の手料理をクリアしてくれた歩くん。
歩くんいわく、「彩葉の手料理は愛情の押し付けではないので食べれます」と微妙な評価をいただいていた。
めっちゃ愛情込めてますけど? というのは飲み込んでいるんだけど……。ちょっとばかり腑に落ちないのはどうしてだろう?
だけど躊躇なくチキンにかぶりついてくれる歩くんを見ると、それだけで頬が緩んでしまう。
「どう?」
「ん、美味しいです! へぇ、家でも簡単に出来るんだ」
うちの調味料を把握している歩くんに、それは雅くんの特製ダレですとは言えない。だってきっとうちには絶対ない香辛料が入っているはずなんだもん。
これくらいなら内緒でもいいよね?