みやびの日である金曜日、陽菜には「報告があります」と一言メッセージを送っていた。
ビールで乾杯し喉を潤した後、グラスを置いた陽菜の目が私を真っ直ぐに射抜く。
「で?」
「えっと、ですね。報告があります」
「はい」
二人して姿勢を正し、私は静かに肺に空気を満たすとひと息に吐き出した。
「恋人が出来ました!」
「うん、だよね」
抑揚のない声で陽菜は言う。
「え? 知ってたの?」
「なんとなく? 肌艶良い日があるし、妙に気合入れて化粧してる日はあるし、そわそわしてる日はあるし、そうかと思えばにやにやしてる日はあるし? 彩葉って分かりやすいよね」
「え……」
覚悟していた気持ちが、すっと引いていく。
なんだ、言わなくても分かってたのか陽菜は……。
「いつか教えてくれるだろうって待ってたんだよ。あんまり首突っ込むのも嫌だしさ。それで相手は誰よ?」
「相手は」
そこまでは分かってなかったのかと、再び気合を入れるように、すうっと息を吸い込んだ。
「同じ部署の……」
「同じ部署の?」
「松岡くん」
「あー、なるほど! そっか、おめでとう」
「ありがと」
陽菜の反応があっさりしていて、もしかして、と思う。
「ねえ、知ってたの?」
「いや、知らなかったけど、松岡くん彩葉の事よく見てたしね。なるほど、って思っただけだよ。でもそっか〜、年下のイケメンかぁ〜、そりゃ肌艶良くなる訳だよね」
「へへへ」
「良かったね! 幸せオーラが眩しいよ! でも気をつけなよ? 松岡くん狙いの女子に刺されないようにね」
「わっ、それ怖いんだけど!」
「まっ、彩葉なら大丈夫でしょ! 仕事出来るし、その部分で認めさせれば外野も黙るってもんよ」
「そうなのかな? ま、でも仕事は頑張るよ!」
「よし、私も負けないように頑張る! 恋も仕事も頑張る! ねえ、もう一回乾杯しよ」
私たちは半分減っているビールのグラスを掲げて、笑顔でグラスを鳴らした。