「雅くん、今日で終わりにする。ありがとう」
千切られた3種類のレタスを器に盛りながらそう言うと、雅くんはフライパンに乗っているハンバーグを返しながら、何かあったのか、と聞いてくれる。
「うん。何かあったみたい。私は料理に夢中で全然気付かなかったんだよね。……ダメだね、ほんと」
レタスの上にきゅうりと真っ赤なプチトマトを乗せてテンション低く答えた。
「でも彩葉は恋人を喜ばせたくて一生懸命やってるんだから、あんまり気にするなよ?」
「…………」
「料理の腕は上達したと俺が認めるから、恋人の胃が爆発するくらいたくさん料理を振る舞えばいいさ!」
「うん」
私はこの数日間、仕事終わりに【キッチン みやび】に来て雅くんから料理を教えてもらっていた。と言っても営業の邪魔は出来ないので、営業時間は簡単な手伝いをしながら、雅くんの手元を追い、店を閉めてから時間の掛からない料理を教えてもらっていたのだ。
先週、歩くんの家にたくさんの種類のお惣菜を買って行って何が好きなのかは調査済み。
調査結果は、何でも好き、だったのだけれども……。
と言うより私の好みに似ているのかもしれない。
「彩葉、モッツァレラチーズ出して、切ってくれる?」
「はーい。カプレーゼ?」
「そうそう」
冷蔵庫からモッツァレラチーズを出し、水を切ってスライスし、ガラスのオーバル皿にスライストマトと交互に並べると、雅くんが上からオリーブオイルとブラックペッパーを振る。
「切るの
「何その言い方? 切るの
「え?! 自覚なし?」
そう馬鹿にして、雅くんはカプレーゼをお客さんの元へ運びに行ってしまった。
……だけ、なんて酷いけど。まあ、確かに。
他にマスターした事なんて、と連日の特訓を振り返る。
生春巻きは、具を包みながら皮を破って悲惨な状態にしてしまったし……。
オムライスは、卵でふんわり包めず、お皿に盛った時には原形をなくしチャーハンっぽくなっていたし……。
サンドイッチは、具材を切って、パンに挟んで出来上がり……。これは上手に出来たな。って具材を切った
サラダも、……野菜を切った
揚げ物も教えてもらいたかったけど、『手を揚げそうで怖いからまだ教えない』と言われてしまった。
手なんて揚げる訳ないじゃん、と思っていると雅くんの声が飛んで来る。
「オーブンからグラタン出してー」
「はーい」
言われるがままにオーブンの扉を開けると小さな空間に籠っていた熱気が勢いよく飛び出してきた。
中に鎮座するグラタンの表面にあるチーズはきつね色に焼け、ホワイトソースがグツグツと煮えている。
あつあつのグラタン皿へ手を伸ばした時だった。
「彩葉っ! ミトン付けろ!」
はっ、として手を引っ込める。指先が火傷する寸前だ。
「危ないだろ、疲れてるなら帰った方がいいんじゃないか?」
「ごめん雅くん」
「ほら、俺がグラタン出すから」
そう言って雅くんは私を優しく押してキッチンの端に連れて行った。