美味しいものを作ってあげたい。
でもクッキーは言語道断。それなら、ご飯くらいなら作ってもいいだろうか。
何を作ってあげられるだろうか。
ひと様に出せるものでなければならない。私の料理の腕なんて
煮物はまだしも、凝った料理なんて家族にさえ出せない。
「どうやったら料理なんて上手く作れるようになるんだろ」
そう溜め息とともにこぼした言葉から、もやもやと煙のように浮かんだそれは一つの顔を作る。
「雅くん?」
そうだ。いるじゃないか。身近に!
料理で生計を立てる従兄が!
こんなもの、使わない手はない。何のための従兄だ、と思った私は、美味しい料理を作りたいという一心で雅くんに連絡したのだった。
雅くんは、私の突拍子もないお願いに条件付きで頷いてくれた。
その条件とは店の手伝いをする事。
それくらいなら仕方ないか、と条件にはすぐに了承し、翌日から仕事終わりには【キッチン みやび】に向かう事になる。
歩くんからデートのお誘いをされるけど、
ごめんね!!
少しの間だけ料理の修行をしてきます、と心の内で謝る。
「先約があるなら仕方ないです」
微笑んでくれていたから、その微笑みの下でしょんぼりしていたなんて気付かなかった。
その時の私には、一日でも早く色んな料理を作れるようになりたいという考えしかなかったのだ。
*
「月見里ー」
仕事帰りの私の背に声を掛けたのは同期の川辺だった。
「お疲れ。どうしたの?」
「どうしたの、って、それ俺が聞きたいんだけど、お前らどうした?」
「お前ら?」
首を傾げる私を見て、川辺も首を傾げる。
「いや、月見里は違うのか? あいつだよ、あいつ。お前の彼氏の方」
「かっ!?」
彼氏って、と焦って手に変な汗が出る。
「彼氏だろ?」
「そうだけど。で、松岡くんがどうしたの? そう言えばちょっと体調が悪そうな日があったよね、でも本人は体調は悪くないって言ってたしな……」
「はあ〜。あいつの顔ちゃんと見たか? 暗くて沈んで澱んで、死んだ魚みたいな目してたぞ?」
「ウソッ?」
「嘘なもんか。俺が嘘なんて言ってどうすんだよ。お前らどうなってんだ? 別れたのかと思ったけど、月見里はそうでもないみたいだし、ホントどうなってんだよ?」
「別れてなんて、ないよ。今日だってこれから松岡くんのために――」
「松岡のために?」
「……いや、たとえ川辺にでも言えないな。内緒だよ内緒!」
「それ、まさか松岡にも内緒にしてないか?」
「してるよ、当たり前じゃん!」
「絶対それだ。しかもそれ、多分バレてるな。そして変な方向に勘違いしてる可能性があるぞ」
川辺の言葉に心臓が止まる。
「うん、すでにバレてるし、それ追及されて私『言えない』って言っちゃった……」
「は〜あ〜〜〜!?!?!?」
川辺が一瞬で鬼の形相になる。
「バカだろ?」
「はい、すみません」
私は小さくなって謝りながら、川辺にくどくどと怒られた。