翌日、土曜日。
彩葉にメッセージを送るか、それとも電話するべきかと、かれこれ一時間ほどスマホとにらめっこしながら悩んでいた時だった。
睨んでいた相手が急に軽快な音を奏で出し、一瞬だけ驚いてしまう。
「ぅおっ、あ、彩葉……」
彩葉からの着信に嬉しさを感じる一方で、浮かれないように唾を飲み込んで息を深く吐き出し、電話に出る。
「もしもし」
『あの歩くん? 今日って家にいる?』
「はい、いますけど」
『お昼から行ってもいいかな?』
「えっ?」
『用事があるなら……』
「いえ無いです。用事なんて何もないです」
何なら僕から連絡しようとしていた所で、とは流石に言えず、何時でもいいですよ、とだけ答えた。
『それじゃあ14時に行くね!』
「はい、分かりました」
彩葉が家に来る。
素直に嬉しい気持ちと、怖い気持ちが半分半分なまま通話を終えると、気持ちを落ち着かせるように掃除に取り掛かった。
彩葉が来たら、きちんと僕の胸の内にある不安を彼女に晒そう。格好悪いなんて言うのは多分今更なのだ。
僕に足りないのは言葉なのだから、どんなに不格好でも誠意をもって吐露すればいい。
それで、二人の関係が『恋人?』というものからどのように変わろうと、受け入れるしかあるまい。
僕がどんなに彼女を好きでいても、彼女の気持ちが僕に向いてないのなら、仕方ない事だ。
そう、仕方のない事、なのだ……。
約束の時間に彩葉は大きな買い物袋を下げてやって来た。
その姿を見て怪訝な顔をした僕に彩葉は困ったように笑う。
「ちょっと買い過ぎちゃったかな?」
「何をそんなにたくさん買ったんですか?」
「今日はお惣菜じゃないよ……。食材を買って来たんだけどね……、あの、……良かったら作ってもいいかな?」
「は?」
唐突に買い物袋から食材を取り出す彩葉を後ろからぽかんと見つめる。
あれ?
僕がおかしいのか?
『ご飯作るね〜』みたいな雰囲気だっただろうか、僕たちは?
おかしい……。僕はどこかで別れ話でも突き付けられるのではないかと思っていたというのに……。
もしかして、あれか? 他人の手作りがダメな僕へ嫌がらせをするためにわざわざ来たのか?
いや、それは無いな。
彩葉の性格からして、嫌がらせなんて100%ない。それは断言出来る。
じゃあ何だ?
――と、そこまで考えて、全て自分の胸の内で葛藤するだけで、言葉に出していない事に気付いた。
川辺主任の言葉がよみがえる。
『言ってくれなきゃ分からないからな。松岡が何を考えて、何に悩んでるかなんて。自分で持て余してる時ほど胸の内にあるものを誰かに聞いてもらった方がいいんだからな!』
川辺主任、その通りです。
僕は胸の内で誰にも話す事なく解決しようとしていました。
それじゃいけないと、僕は彩葉の背に問い掛ける。
「彩葉、何をしようとしているのか教えてくれますか?」