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第67話

子供っぽい僕はそれからどうするべきなのか分からなくなってしまった。


彩葉から別れ話がないのをいい事にズルズルと『恋人?』と疑問符のついた関係を続けている。


「ねえ月見里さん。松岡さん、どうしちゃったんですか?」


コソコソと話す結城さんの声。だけど真向かいにいるため全て聞こえている。


「あー、ごめんね?」

「ケンカですか? 早く仲直りした方がいいですよ」

「うん、そうだよね。ありがとう結城さん」


それを聞いて、何がありがとうだよ、と内心で悪態をつく。


それにケンカじゃない。

ケンカなんてしてない。


僕が子供過ぎて勝手に怒って沈んでいるだけだからケンカにもならない。彩葉は大人の余裕でそれを見下ろしているだけだ。


泣けてくる。


いや、職場だから涙なんて見せないけど、家に帰れば分からない。


こと、彩葉の事になると情緒不安定になる自分が情けなかった。




仕事終わり、彩葉からデートに誘われるなんて事の全くない一週間が終わってしまった。


このままダメになるのか?

自然消滅――という言葉が脳裡をよぎる。


「松岡どうした? ここ最近暗いじゃないか? 何かあったのか?」

「川辺主任。……何もないですよ」


僕の言葉に、そうか? と川辺主任は首を傾げている。


「何なら飲みにでも行くか?」

「いえ」


そんな気分にはなれない。


「まあ、無理に誘ったりなんかしないけどさ、なんか相談事でもあるならいつでも聞くから溜め込むなよ?」

「はい」

「言ってくれなきゃ分からないからな。松岡が何を考えて、何に悩んでるかなんて。自分で持て余してる時ほど胸の内にあるものを誰かに聞いてもらった方がいいんだからな! お前わりと自分で解決しようとするタイプだろ? 話してみれば、なんだそんな事、ってなる話しもある。言葉が少ないんだよ松岡は、な?」


川辺主任は何気なく言ってくれたのだろうけど、その言葉が重みを持って僕の胸にズシンと響いた。


「ありがとう、……ございます」

「なんだ? まだ俺はお前の話しを何も聞いてないけど……」


頭をガシガシとかく川辺主任に頭を下げる。


そうだ、僕は胸の内に溜め込んだまま一人で悩んでいた。そんな事に気付かせてくれた川辺主任には感謝しかない。


失礼ながら、何も考えず能天気に生きてそうな印象のこの先輩を、この日僕は初めて尊敬した。




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