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第20話

翌日、パソコンに向かっている私の隣から何度も視線を向けられる。


「結城さん? どうした? どこか分からない?」

「はい。分かりません」

「どこどこ?」


早く質問してくれれば良いのに、と思いながら結城さんの手元を覗き込む。

けれど、ぱっと見では出来ているように見えるのだが……。


「月見里チーフ、私の気持ちに気付いてましたよね」

「へっ?」

「それならそうと言ってくれたら、……私一人でバカみたいじゃないですか……」

「え? あ、あーー、ごめん」


結城さんが言いたいのは私と松岡くんの関係だろう。付き合ってるって早く言ってほしかった、と言う意味に聞こえた。


でも、フリなの。期間限定なの。……なんて言えないし。


友梨さんたちがアメリカに行って、私と松岡くんの関係も解消したら、またアピールしてもいいんだよ、って今は言えないけどね、


……と思った瞬間、胸が痛くなる。


なんだろう、この気持ち……。


分からない気持ちに胸が痛む。分からないけど、でも確かに小さく『嫌だな』と感じた事は分かった。


「月見里チーフすみません。それだけどうしても言いたかっただけで。早く教えてくれたら良かったのになって、昨日からずっとモヤモヤ考えてたから。

それから、知らなかったとは言え色々すみませんでした。……よし! 仕事頑張ります!」


笑顔で切り替える結城さんに驚きながらも、「ごめんね、ありがとう」と返し、またパソコンに向かった。



上の棚にある資料のファイルに手を伸ばしていると、後ろから来た手にそれを取られる。


「これ?」


ビクリと肩が上がる。今までこんな反応したことなかったのに、昨日の話しを思い出して……、この声は、私のことを好きな……


「カワベ、アリガト。ソレ、ソレ!」

「そんな反応されると、ちょっと切ないんだけど。いつも通りフツーに頼むよ?」

「ご、ごめん。うん、フツー、フツー、アリガト、アリガト!」


川辺の手からファイルを受け取ると私は後ろに足を二歩下げた。早く進行方向に向きを変えればいいのだが、私はそのままもう一歩後ろ向きに足を下げたために、そこにいた人物に気付かず、背中からぶつかってしまった。


「危ないですよ、ちゃんと前を向いてください」

「ごめん! 大丈夫?」


後ろから両肩を支え倒れないようにしてくれているのは松岡くん。覗き込むように顔をうかがわれてその近さにドキっと胸が鳴る。


「僕は大丈夫です。月見里さんは?」

「だっ、大丈夫です」


声が上擦る所に、川辺からイチャ付くなと、呆れた声が飛んで来て、慌てて松岡くんから離れる。


「あーあ、残念」


そう小さく呟く松岡くんに、残念じゃない、と返して自席に急いで戻ると結城さんに冷ややかな目を向けられ、咄嗟に謝る。


「すみません」

「いえ」


私はその週ずっとそんな感じだった。





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