夕方この駅に着いたときにはまだ暑かったように思うのだが、日が落ちた今はもうすっかり涼しく、風が吹けば寒さを感じるほどになっていた。
「あー楽しかった!」
「ほんとですか?」
隣を歩く松岡くんが怪訝な顔をしてこちらを見ている。
「うん、ビールもい~っぱい飲んで、美味しい料理た~くさん食べて幸せ~」
「はいはい」
まるで酔っぱらいをあしらうような相槌にケラケラ笑う。もしかしたら自分で思っているより酔っているのかもしれない。
あの後コンビニから帰ってきた松岡くんと湊さんの手にはビールに酎ハイ、ワインがあった。
重い空気を変えるように友梨さんが『お帰りー、遅いよ二人とも~、まだまだ飲み足りないんだから』と漂う空気を柔和にする。
それから二時間ほど、何もなかったように楽しく食べ、飲み、先ほどやっとお開きになったのだ。
「じゃあここで」
「遅くなったので家まで送りますよ」
「そんな、全然大丈夫だよ。まだ電車あるんだし」
「今帰ったら友梨に叱られます。何で彼女を送らないんだって。嘘がバレます。だから……」
「うん、……そうだね、じゃあ電車乗ろうか?」
そのまま二人改札をくぐるとホームに向かい、すぐ来た電車に乗った。
電車に揺られながら車窓の外を流れる街の鮮やかな明かりをぼんやりと見ていると、松岡くんがこっそりとため息をつく。
気付かないふりをしてもいいのだろうけど、酔っていた私は、疲れたね、と言っていた。
「すみません、付き合わせて……」
「ほんとだよ。あーー、疲れた〜。でも楽しかった。友梨さんも湊さんも素敵な人だね。でもアメリカに行ったら気軽に会えないのか……。寂しいね?」
「は、い、いえ! 寂しくなんて、……ないです」
言葉とは裏腹にその瞳は寂しいと言っているのが充分に分かる。
「アメリカに行っちゃう前にまた四人で飲めるかな?」
「どんだけ飲むんですか」
「ははっ、いいじゃん、いいじゃん」
だってきっと友梨さんはこれからどんどん忙しくなるだろうから、あちらから誘われる事はないだろう。それならこちらから声を掛ければいい。そうすれば忙しい友梨さんに松岡くんは会えるんだ。
そのために私を利用するならすればいい。
それで大好きなお姉さんへの気持ちに決着がつくのなら。
今日見ていて少し分かった事がある。松岡くんの視線の先には常に友梨さんがいること。その瞳の熱量を感じた私の勘では、松岡くんはお姉さんの事を家族としてではなく異性として好きなのではないかと。
だからこそ、友梨さんの結婚、アメリカ移住に苛立つのだ。大好きな人が自分の元から知らぬ間に離れて行くから。