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第3話

仕事終わり、

同期で総務部主任の中山陽菜なかやまひなと二人で

【キッチン みやび】に行く。


自然な優しさをコンセプトに地場野菜を使うメニューに惚れた私達は、毎週金曜日は、みやびの日、と決めて一週間の仕事疲れを労い合うのだけど、今日はいつもの金曜とは違って、ちょっと特別な日。


「お誕生日おめでとう〜」

「ありがとう!」



三月三十一日の今日、陽菜は二十八回目の誕生日を迎えた。


「陽菜ちゃんおめでとう。これは店からお祝いのワインだよ」


そう言ってテーブルにワインを持って来たのは、オレンジ掛かった明るい髪色をした【キッチン みやび】の店長、みやびくん。チャラい見た目に反して根は真面目。因みに私の従兄いとこだがそれは置いておこう。


「雅さん、ありがとう〜!」


にこにこと人受けのいい笑顔を浮かべる雅くんからワインを受け取り、二人で乾杯をする。


「あー、二十八歳かあ〜。三十路みそじが近付いてきた〜。二十歳はたちの頃には二十八歳あたりで結婚してる予定だったのになぁ〜」

「分かる! そうなんだよねぇ」

「よし、今年は仕事ばっかじゃなくて絶対彼氏作る! そして三十歳で結婚、……したいなあ〜」


陽菜の言葉にうんうんと頷いて共感する。

私も仕事が楽しくて、忙しくて恋愛はご無沙汰だった。


だけど、陽菜には三十歳になるまでの猶予があと二年あるのに対して、私はあと一年と二ヶ月。六月には二十九歳になってしまう、と考えれば、三十歳なんてあっと言う間に迎えそうな気がしてきた。


「やばいな」

「うん、私たちヤバイよ。彩葉あやは頑張ろうね?」


しっかりと頷き返してワインをごくっと飲み干す。


明日から新年度。

心新たにスタートさせるには丁度良いかもしれない。





四月一日

入社式が会議室で行われている傍ら、営業部では増田ますだ部長から辞令を手渡されていた。


「おい川辺、良かったな主任に昇格、頑張れよっ」


軽い言葉で辞令をコンニャクのようにぺらーんとさせながら渡す増田部長から、それを受け取るのは同期の川辺裕二かわべゆうじ


「あとは、事務の月見里やまなしにチーフって付けるらしいぞ?」

「なんで、疑問系なんですか? って言うか部長、入社式出ないんですか?」


苦笑いする増田部長に軽口を言いつつ私は部長の手でぺらりんぺらりんと動いている辞令を取ると、確認のためにそれを見た。


『営業部 営業事務 チーフ 月見里彩葉やまなしあやは


「ほんとだ、チーフだって」

「良かったね、昇格おめでとう」


そう声を掛けてくれたのは、課長の久保田直子くぼたなおこさん。


「ありがとうございます」


それから三山みやま係長が、昇格おめでとうございます、と細い目を更に細めて目尻に皺を寄せる。


「じゃあ今日から月見里チーフって呼ばなきゃ」


そう言うのは一つ年下で営業の清水香織しみずかおりさん。


「月見里チーフ」

「川辺主任〜」


同期二人でからかわれて照れていると、入社式が終わったのか、営業部配属の新入社員が一人、総務部の陽菜に案内されてやって来た。


「お待たせしました〜。はい、自己紹介して」

「ゆ、結城麗奈ゆうきれいなです。よろしくお願いいたします」


拍手をしながら歓迎する。

隣にいる久保田課長と「可愛いねぇ〜」なんて言いながら。キメの細かい白い肌にくりっとした大きな瞳に長い睫毛は、まるで西洋人形のよう。

ぽってりとした唇も可愛いくて、増田部長の鼻の下は完全に伸びていた。


結城さんと同じ制服を着ているのに、何故か違って見えるのはどういうことだろうと首を傾げながら、お人形さんみたいな結城さんを席に案内する。


「結城さんの指導係で事務の月見里です。よろしくね!」

「はい。よろしくお願いします」


きちっと頭を下げる姿に感心しながら、座席表を出し結城さんに見せる。


「営業部は一番奥から増田部長」


と、奥に離れ小島のように大きなデスクを構えた増田部長が片手をあげて応えている。


次に、その手前の島にデスクが四つある。


右奥から時計周りに

三山係長。

川辺主任。

清水さん。

久保田課長。


と紹介していき、

更にその手前の島が私たちの島。ここもデスクが四つあり、結城さんの向かいに座る松岡くんを紹介し、私の向かいは空席だと説明した。空席だけれど、そこは資料や伝票であふれる場所。


「名前は追々覚えてくれたらいいからね」


小さい会社で人数も少ない。すぐに覚えてしまうんだろうな、と思いながら次に社内の説明を簡単に済ませると、私の仕事を一緒にしてもらった。





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