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許可証

 軍の本拠地を中心に、放射線状に伸びた都。

 翼を広げた鷲の旗を揺らしながら、馬車はセントラル通りを進んだ。

 教会、住宅、レストラン、雑貨品店等々が並ぶ。

 軍の駐在所も、都の中に点在している。


 1人と1匹は、本拠地の取調室に招かれた。

 赤茶の髪をオールバックにした男は、穏やかな細い目で睨んだ。


「君が所持しているライフル銃はどこで手に入れた?」

「知り合いの狩人から譲り受けました」


 書類に目を通す。


「許可証がないな」

「許可証?」

「あぁ、君が所持しているライフル銃は軍人及び狩人に支給される。許可証がなければ軍関係者から強奪したと見なされ、軍法により銃殺刑となる」


 穏やかな瞳のまま肩をすくめる。

 狼は左目の琥珀を大きくさせて、男に吠えた。


『あの狩人はたまたま通ったオレ達に武器を寄越したんだぞ。銃殺刑なんぞふざけるな!』

「話は最後まで聞いてほしい。他の奴なら有無を言わさず刑を実行するだろう。しかし、今回は運が良い」


 焦るなと微笑み、書類をテーブルに滑らし、赤ずきんに見せる。

 細かい文字がびっしりと書面に並ぶ。


「ライフル銃の許可証を俺の権限で発行する。その為にはどうしても受けなきゃいけない試験があるんだ、合格したら君達は解放される」

「不合格なら?」

「見つけた以上放っておくわけにはいかない、合格するまで施設に軟禁とする」


 赤ずきんは渋々承諾する。


「分かりました、それでどんな試験ですか?」

「施設の射撃場で腕を見る、それから実践で狩りをする」

『いつもと変わらんな』

「そうだね」

「よし赤ずきん、準備が整うまで待機していてくれ。すぐに戻る」


 男は部屋から出て、ふぅ、と息を吐く。

 シンプルさと威厳を表すような造りの廊下を進み、会議室に入ればワイアット達が整列して待っていた。


「副隊長の俺ウィリアム、アーサー、イーサン、アルフィー、ワイアット、全員揃っている」


 細い体躯のウィリアムは、小さな声で報告する。


「隊長、うっす!」

「ども」


 アーサーとイーサンのラフな敬礼に、呆れて笑うライアン。


「なんだその半端な敬礼は、まぁ戦争中でもないし、楽にしろ」

「はい!」

「これから彼女に、許可証を発行するための試験を行う。次の駆除任務が来るまでに備えておけ、解散!」

「了解!」


 肩を組み合って立ち去るアーサーとイーサン。

 アルフィーはソファに腰かけ、読書。

 ウィリアムは静かに部屋から出ていく。


「ワイアット、せっかくだ、一緒にどうだ?」


 ライアンは窓から射撃場を眺めた。


「えっ、俺、ですか」


 自らを指し、目を丸くさせる。

 ライアンは力強く頷いた。


「今回の駆除任務、また撃てなかったと副隊長から聞いている」

「う……す、すみません」


 帽子の鍔を摘まんで俯いてしまう。


「撃てないことは悪いことじゃない。だが、俺達は銃で人々を守る組織だ。できなければ、除隊するしかない」

「……それは、嫌です。や、やります」


 拳に力を込め、怯えが残った声色で呟く。

 取調室に戻ってきたライアンを穏やかな瞳に映した。

 背後にいるワイアットに、狼は太い牙を剥き出す。


『なんじゃクソガキなんの用だ!』

「ひゃぁっ」

「どうどう、狼さん」


 ワイアットは間抜けな声を出してライアンの後ろに隠れてしまう。


「外で何があったか知らないが、彼は新米でね、大目に見てやってほしい。それと待たせてすまない、射撃訓練場に行こう」





 基地内にある射撃場にて、赤ずきんはボルトアクションライフルを構え、300メートル以上先の的を狙う。

 人型の的で頭部と胸部に黒い点のマークがついている。

 その的が5枚。

 狼は射撃場から離れた場所で伏せて、男2人の背中をジッと睨む。

 前傾姿勢で銃床を肩に当て、頬を密着、照準器越しに的を覗き、呼吸を止めた。

 射撃場に爆裂音と衝撃波が生まれる。

 ボルトハンドルを一度起こして後ろに引き、排莢して前に押し込んで、また元の位置に戻して倒す。

 瞬時に繰り返して、また1発、また1発と装填した5発全てを撃つ。


「う、ウソ……」


 双眼鏡で覗いた的に、首を振る。


「なるほどな、予想以上の精度だ。全弾、急所を撃ち抜いている」

「う、ライアン隊長、自信なくなってきました」

「ワイアット、彼女をベースに考えるな。お前は新米ながら射撃訓練での精度は上々、あとは」


 途中、軍事施設内のスピーカーから流れる低めの音に、口を閉ざしたライアン。

 しばらく鳴らした後、ゆっくりと音が小さくなり、消えていく。


「何の音ですか?」


 赤ずきんが訊ねると、


「ひ、人食い狼の駆除命令だよ。依頼がきたら鳴るんだ」


 優しくワイアットが答えた。


「ちょうどいい、新米兵士の集まりで悪いが試験代わりに人食い狼の駆除に協力してくれないか? 許可証だけでなく銃弾と報酬金を渡そう」

「銃弾なら大歓迎です、是非」

『おい、赤ずきん、お前こんな兵士共と一緒に行くつもりか?!』


 信じられない、と吠えまくる。

 落ち着かせるために狼の頬を撫でた。


「許可証とさらに弾とお金が貰えるんだよ、今度鹿肉買うからさ」

『う……ぐ……うぅぅ』

「よし、行こう。えーと新米兵士さん?」


 ワイアットは体をビクッと跳ね、目を丸くさせた。


「え、えと」

「実戦で撃てないと、人食い狼に食い殺されますよ。無理ならさっさと諦めた方がいいかと思います」

「た、べ…………られる」


 ワイアットは全身が強張り、抱えているライフル銃をミシミシと握り締めた。

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