ざわつき始める貴族達。
「...まさか、あなたがあの【X】ですか?」
「そんなわけないだろ。俺みたいな地方貴族がXだなんてあり得ない」
「...では、左腕を見せてください。炎呪が無ければ信じましょう」
「...」
「どうしました?」
無言で左腕を見せるがそれは傷ひとつない腕だった。
「...あり得ない」
「その魔法具壊れてるんじゃないか?試しに隣の人にやってみなよ」
そうして、48番の腕を触るがまたしても赤く光る。
すると、貴族たちの嘲笑が始まる。
「突然のことで驚きましたが...まさかそういうパフォーマンスだったなんて」
「貴族になって舞い上がって、注目を浴びたかったのかしら...」
「ちがっ!パフォーマンスなんかじゃ!「しかし、実際2人が赤くなっているじゃないか。これをどう説明するんですか?」
「ぐっ!!」と、俺を睨むサンジュ・ボルト。
手品の種は至って簡単である。
左手は魔法で皮膚を再現し、見かけ上は普通の腕に見えるというものだ。
しかし、そんなのは表面上の話であり、あの魔法具を騙せるようなものではない。
だからこそ、魔道具が俺に触れた瞬間、その魔法回路をぶっ壊してバグらせたのだ。
まぁ、この世界で最も強い人間である俺からすればこんなのは大したことではない。
転生した直後は色々と苦労したもんだが、今では魔法の力については完璧にコントロールできていた。
そのまま、次の議題に進んでいく。
隣国のボヘミア国が侵攻しようとしているとか、最近噂になっている剣士についてとか、それ以降はどうでも自慢話とか、誰々の奥さんが可愛いとかそういう話。
その頃には、あくびをしながら適当に話を聞き流していた。
そうして、ひと段落するとそのまま茶会が始まる。
貴族共があーでもないこーでもないと、楽しそうに話し合っていた。
そんな様子を2階から眺めていると、ナーべがやってくる。
「あらあら、こんなところで油を売っていていいのかしら?50番様」と、楽しそうに煽りながらそんなことを言うナーベ。
「...別に。こんな会には興味ないからな。けど、貴族という称号を剥奪されると色々と面倒だからな。だから、寄付は最低限のみで何とか命を繋いでるだけだし」
「...そう。ね?私がもし他の貴族様に買われるとしたらいくらで売る?」
「売らねーよ。月をくれると言ってもやらねー。なんだその質問はよー。俺の器でも試してんのか?」
「いえ、別に。実際、あなたが私のことをどれだけの価値として見ているのか気になっただけ」
「本当に金に困ったらまたダンジョンに潜るか、それか正体を明かしていよいよ戦争にでも参加するから。だから、ナーベは余計な心配も妙な詮索もしなくていい」
「...そう。本当に私は救われたということね」
「そういうことだ」
そんな話をしていると、螺旋階段を上がってくる1人の男...。
先ほどの男...サンジュ・ボルトだった。
「...ここに居たのか」
「何だ?またいちゃもんつけてくる気か?」
「...いや、君には悪いことをした。冗談半分のつもりだったんだが、まさか本当にあの魔道具が反応するなんて...」
「誤作動だったけどな」
「そうだね。こういうのが最初が肝心だと思って舐められないようにしたつもりだったんだが...」
「裏目に出たな」
「...だね。まぁ、君に指摘されたとおり、僕は笑うのも苦手でね。こういう表舞台に立つのも苦手なんだよ」
「そりゃ、俺と同じだな」
「そのようだね。まぁ、これからよろしく頼むよ、ランくん」と、手を差し出す。
しかし、俺はその手を取らずに「おう」と、手をパタパタさせながら会場を後にするのだった。
◇
「...遅くないですか?」と、家に帰るとすぐにアインちゃんに詰められる。
「...いや、割と早く抜けたつもりだけど...」
「...本当ですか?...それならいいですけど...」と、チラッとナーベを見る。
「...何かしら?」
「...本当に何もしてないですか?」
「してないわよ」
「...なら、この後はラン様を借りても良いですか?」
「好きにしなさい。私は眠いからもう寝るわ」
えー?俺も結構疲れてるんだけど...。
しかし、ワクワクとした顔をしているアインちゃんにまた明日とは言えずに2人で部屋に行った...のだが...。